環境技術解説

地球観測技術

2014年7月3日掲載

地球環境問題は、従来の公害や特定地域の環境問題と異なり、その影響が国を越え全球に及んでいます。また、近年の自然災害は規模が拡大し、影響が多数の国に及ぶ傾向にあります。このような地球規模の環境や災害の実状を把握・解析し、有効な対策に役立てるためには地球規模の観測が必要です。この記事では、地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの中で最も重要な二酸化炭素(CO2)に焦点をあてて、地球観測に用いられる技術を紹介します。

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1.背景 ~地球観測の重要性と必要性~

地球観測は、世界中の多くの国の事業や国際的な共同事業として実施されています。1957年からの国際地球観測年を契機として南極点とハワイ・マウナロアにおいて大気中のCO2濃度の正確な観測が開始され、CO2濃度の上昇をはっきりと捉えたことで世界に衝撃を与えました。さらに、人工衛星によるオゾン観測が南極上空における成層圏オゾンの減少(オゾンホール)を明確に捉えたことから、地球観測の重要性と必要性が改めて確認されました。

図1

図1 ハワイ・マウナロア観測所で観測された大気中のCO2濃度の推移(出典:NOAA/ESRL, Trends in Atmospheric Carbon Dioxide

こうした状況を受け、日本では内閣府の総合科学技術会議が2004年(平成16年)に「地球観測の推進戦略」をまとめ、国としての体系的な観測の方向性を明確にしました。この記事では、「地球観測の推進戦略」に示された推進戦略のうち、CO2の地球規模観測に用いられる衛星観測技術、航空機観測技術、海洋観測技術について紹介します。

日本のCO2濃度は?

国立環境研究所が設置している北海道根室市落石岬と沖縄県波照間島の観測ステーションでは、一年間の平均濃度が400ppmを超えました。これらステーションで観測された濃度の速報値は下記サイトから閲覧することができます。

2.宇宙から測る ~GOSATによるCO2観測~

衛星観測技術は、人工衛星に搭載したセンサによる電波、マイクロ波、赤外線、可視光、紫外線の観測結果を様々な手法で解析し、温度、高度、水位、植生分布、大気中のガスや粒子状物質など、多様な事象と物質の水平・垂直分布を明らかにするものです。現在、日本をはじめ、アメリカ、ヨーロッパ、ロシア、インド、中国など多くの国が衛星を打ち上げ、観測を実施しています。

大気中のCO2濃度は、従来から世界各地で観測されてきたものの観測地点が限られ、地球規模での実態把握にはより多地点の観測が求められていました。温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT:ゴーサット、Greenhouse gases Observing SATellite)はこの要請に応えるため、環境省、国立環境研究所、宇宙航空研究開発機構(JAXA)により共同で開発されました。2009年1月23日に種子島宇宙センターから打ち上げられ、同年4月から観測を開始しています。

GOSATには、「温室効果ガス観測センサ(TANSO-FTS: Thermal And Near Infrared Sensor for Carbon Observation - Fourier Transform Spectrometer)」と「雲・エアロソルセンサ(TANSO-CAI: TANSO - Cloud and Aerosol Imager)」という2つのセンサが搭載されています。

TANSO-FTSは、地表面で反射した太陽光と、大気から宇宙へ放射される赤外光を観測します。大気中に存在するCO2やメタンは、特定の波長の光を吸収・放射する性質があるため、大気中を透過してきた光の吸収度合いや大気自身が放射する光の強さによってCO2とメタンの濃度が算出できます。

図2はTANSO-FTSデータの例です。くし状のへこみになっている部分がCO2やメタンなどにより吸収されている波長帯です。1.6 μm付近(バンド2)や2.0 μm付近(バンド3)のCO2吸収帯は、地表付近の情報を多く含んでいます。また、10 μm と14 μm付近(バンド4)のCO2吸収帯は、主に高度2 km以上の情報を得るために利用されます。

図2

図2 GOSATの観測で得られたスペクトルの例と、そこに現れたCO2などの吸収帯
一番上のスペクトルはシミュレーション、各バンドのスペクトルはFTS L1Bプロダクト(初期校正済み)(出典:GOSATプロジェクトパンフレット)。

ただし、光の通り道に雲があると、雲で反射した光を測定してしまい、正確な濃度を算出できません。そこで、TANSO-CAIを使って雲のないデータを選び出します。

さらに、これまでは主に地上観測データからCO2とメタンの吸収・排出量を推定しているため、地上観測点が少ないアフリカや南アメリカ等の推定誤差が大きくなっていました。GOSAT観測により全球の晴天域でほぼ一様にデータを取得できることから、より高精度の吸収・排出量の推定が可能になりました。

3.空から測る ~旅客機によるCO2観測~

航空機による広域観測は主に地図作製などに利用されてきましたが、近年は環境汚染、災害把握や地球環境の実態把握に多く利用されています。航空機による大気の観測には、衛星観測と同様な遠隔からのセンサによる観測と、航空機に搭載した装置によって直接大気を測る観測があります。

国立環境研究所では、1992年から1994年までチャーター航空機を用いたシベリア上空における温室効果ガスの広域観測を実施しました。1993年からは同じシベリアにおいて大気サンプリング法による定期観測を開始し、現在も継続しています。また、気象研究所は1993年から日本航空(JAL)らと共同でJALのボーイング747型機に自動大気サンプリング装置(ASE: Automatic Air Sampling Equipment)を取り付けて大気試料を採取し、実験室での分析を実施しました。

2005年から始まったCONTRAILプロジェクト(Comprehensive Observation Network for TRace Gases by AIrLiner)では、国立環境研究所が気象研究所、JAL、航空機搭載装備品メーカーのジャムコ、JAL財団と共同し、国際線に就航している旅客機を用いた温室効果ガスの広域観測を実施しています。CONTRAILプロジェクトで開発されたCO2濃度連続測定装置(CME: Continuous CO2 Measuring Equipment)では、上昇中と下降中における鉛直分布の測定のほか、連続測定により詳細なCO2濃度の分布の解析を可能にしました。

図3

図3 CONTRAILプロジェクトで使われている機体と観測装置
2014年1月時点でJALが運航する8機のボーイング777-200ER型機に観測装置を搭載することが可能になっています。CMEは前方貨物室に搭載され、離陸直後から着陸直前までCO2濃度を測り続けます。ASEは後方貨物室に搭載され、上空の12カ所で空気を採取できます(出典:環境儀No.51)。

旅客機を用いた観測は、ヨーロッパの研究機関によるIAGOS-COREプロジェクトやIAGOS-CARIBICプロジェクトなどでも実施され、CONTRAILと共同して全球的な観測網の構築になることが期待されています。

4.海から測る ~船舶によるCO2観測~

地球表面の7割を占める海は、気候をはじめ地球環境に大きな影響を与えるだけでなく、地球上のCO2循環に重要な役割を果たしています。海の観測は船舶から海の深さを測ることから始まり、次に海水温と塩分の測定といった物理観測が気象観測の一環として始まりました。世界の観測結果を集約する活動が19世紀のうちに始まったのも、気象観測の一環であったためです。その後、海の生物の観測や海底の地質、さらには地球内部までを対象とする海洋観測が発展しましたが、どのような方法でも広大な海の限られた領域の観測しか行えませんでした。物理観測では、民間商船をネットワーク化して行う観測が第2次世界大戦後に、多数の自動計測ブイを組織化して行う観測が2000年頃に始まり、広域化が図られてきた歴史があります。

海洋観測船による海洋観測

日本での海洋観測船による海洋観測は、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、気象庁、水産庁、海上保安庁などが、それぞれの目的で海洋観測調査船を保有し、様々な海洋観測を実施してきました。また、大学、教育機関、地方自治体に所属する研究船、練習船、調査船等も協力して海洋観測を実施してきました。特にCO2の観測は、気象庁の海洋観測船が北西太平洋域を中心として1980年代から継続的な観測を続けていて、長期の変動傾向も把握されてきました。

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貨物船による海洋観測

海洋観測の広域化を図るために、物理観測では商船など一般の船舶の協力を得てXBT(eXpendable BathyThermograph)と呼ばれる使い捨て型温度・深度センサを投下する観測が行われてきました。商船による観測では、停船させることなく通常航行中に観測を行う必要があるからです。しかし、CO2のような成分の計測は、センサの投下では不可能なため、船上に観測装置を搭載する必要があります。そのためには、商船のより積極的な協力と専門的保守管理が必要となります。世界のいくつかの機関が試みましたが、長期継続には成功しませんでした。

国立環境研究所では、太平洋を運航している貨物船にCO2の観測装置を搭載して、洋上大気と表層海水の観測を実施しています。日本-北米間、日本-オセアニア間の貨物船では洋上大気と表層海水の観測を、東南アジア域を航行する貨物船では洋上大気の観測を実施しています。20年にわたる温室効果ガスの継続観測は世界でも例がありません。

図4

図4 篤志観測船(Trans Future5号:トヨフジ海運(株)所有)と観測装置
大気観測ではCO2やメタンなどの温室効果ガスの他に、オゾンや一酸化炭素、酸素窒素比の観測を行っています。海洋観測ではCO2の他にも海水試料を採取して栄養塩類やクロロフィル濃度測定を行っています(撮影:大東正巳)。

このような観測は篤志観測船(Volunteer Observing Ship)観測と呼ばれ、船の運航にかかる費用がほとんど必要なく、広い海域の観測を繰り返し行えることが利点です。一方で欠点は、研究目的で観測航路を決めることができないことと、停船しての観測ができないため表層以深の観測がほとんどできないことです。そのため、研究観測船と篤志観測船による観測がお互いの特徴を生かし、また互いの弱点を補って観測を行うことが重要です。これらの観測によって、大気と海洋間のCO2交換量や海洋CO2循環像の理解が進むとともに、地球温暖化とCO2濃度上昇の海洋への影響が評価されています。

5.まとめ

この記事ではCO2の地球規模観測に用いられる衛星観測技術、航空機観測技術、海洋観測技術を中心に紹介してきました。この他に、従来から実施されている地上でのCO2の観測では、個々には観測装置が設置されている周辺(ならびに風上)の情報しか得られませんが、多数の観測情報を集めることにより地球規模の状況を把握することも可能になります。表1に地球観測に使用されているこれらの観測技術の特徴をまとめました。

表1 地球観測技術の特徴
  衛星観測 航空機観測
チャーター
航空機観測
旅客機
海洋観測
観測専用船
海洋観測
商船
地上観測
広域観測 ×
大気の鉛直分布観測 × × ×
観測精度
多成分観測
費用 × ×
高頻度観測 × ×

それぞれの観測技術に異なる手法が含まれることもあり単純な比較はしにくいものの、6つの主要な事項に適す程度が高い順に、4つの観測技術(航空機と船舶は観測専用のものと民間利用のものをさらに分けた)を◎、○、△、×の4段階で評価したものです。

どれか一つの手法で広大な地球環境を把握することはできません。広大な地球環境を精度良く把握するためには、これらの観測技術を駆使して情報を収集し、解析することが必要です。

図5はIPCC第5次評価報告書に掲載された地球観測の歴史を紹介する図です。環境観測は百数十年にわたって続けられてきましたが、衛星を用いる広域観測は1980年代から本格的に実施されるようになったに過ぎません。近年発展の目覚ましい科学技術を活用しながら、地球観測技術を発展させていくことが求められています。

図5

図5 地球観測の歴史
上図では地球環境の観測に使用されている手法の歴史を見ることができます。 左下の図は気温観測が開始された年を示しています。北米や欧州などでは1900年代から観測が開始されていますが、アジア、南米、アフリカでは1950年以降に開始され、未だに観測が行われていない場所もあります。右下の図はヨーロッパ中期予報センター(気象予報)で使われている衛星観測データの数の推移を示しています。1996年と2010年を比べると5倍に増えています(出典:Climate Change 2013: The Physical Science Basis)。

参考文献

[1] NOAA/ESRL. "Trends in Atmospheric Carbon Dioxide". [Pieter Tans, NOAA/ESRL and Ralph Keeling, Scripps Institution of Oceanography]. 2014-05-05. http://www.esrl.noaa.gov/gmd/ccgg/trends/, (accessed 2014-05-27).

[2] 環境研究開発推進プロジェクト:地球観測調査検討ワーキンググループ. "地球観測の推進戦略". 総合科学技術会議. 2004-12-27. http://www8.cao.go.jp/cstp/output/iken041227_1.pdf, (参照 2014-03-03).

[3] 科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会地球観測推進部会. "平成22年度の我が国における地球観測の実施方針". 文部科学省. 2009-08-07. http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/toushin/1283450.htm, (参照 2014-03-03).

[4] 地球観測に関する臨時の作業部会(ad hoc GEO). "複数システムからなる全球地球観測システム GEOSS10年実施計画参照文書". 文部科学省訳. 2005. http://www.mext.go.jp/a_menu/kaihatu/kankyou/suishin/detail/__icsFiles/afieldfile/2010/01/14/1285005_1.pdf, (参照 2014-03-03).

[5] 国立環境研究所地球環境研究センター. "人工衛星による温室効果ガスの全球観測 GOSATプロジェクト". GOSATプロジェクトパンフレット. 2013. http://www.gosat.nies.go.jp/jp/GOSAT_pamphlet_jp.pdf, (参照 2014-03-05).

[6] 国立環境研究所. "旅客機を使って大気を測る 国際線で世界をカバー". 環境儀. No.51. 2014. http://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/51/51.pdf, (参照 2014-06-11).

[7] 国立環境研究所. "海の呼吸 - 北太平洋海洋表層のCO2吸収に関する研究". 環境儀. No.6. 2002. http://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/06/6.pdf, (参照 2014-03-03).

[8] IPCC. "Climate Change 2013: The Physical Science Basis". Contribution of Working Group I to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change. [Stocker, T.F., D. Qin, G.-K. Plattner, M. Tignor, S.K. Allen, J. Boschung, A. Nauels, Y. Xia, V. Bex and P.M. Midgley (eds.)]. 2013. http://www.ipcc.ch/report/ar5/wg1/, (accessed 2014-03-05).

(2014年6月現在)