金沢大ら、越境汚染に特化した新たな大気汚染分析手法の開発
発表日:2025.07.04
金沢大学環日本海域環境研究センター、京都大学大学院エネルギー科学研究科、富山大学学術研究部都市デザイン学系の研究者からなる共同研究グループは、大気中のブラックカーボン(BC)と酸化鉄粒子マグネタイトの関連性を磁性の観点から解明し、大気汚染の新たな判別手法を確立した(掲載誌:Environmental Science & Technology)。
PM2.5に含まれるマグネタイトは、燃焼排出に由来する酸化鉄であり、健康リスクや気候変動への影響が懸念されている。従来は観測手法の制約により、排出源や季節変動の詳細な把握が困難であった。本研究では、石川県珠洲市の能登大気観測サイトにて採取された実大気フィルター試料の残留磁化を超伝導磁力計で測定し、世界で初めて日単位の時間分解能で通年のマグネタイト濃度を観測することに成功した。
BC濃度との比較により、マグネタイトは石炭燃焼と強く関連し、冬季に濃度が高まる傾向が確認された。また、バイオマス燃焼や石油燃焼と比較して、石炭燃焼由来のマグネタイトはBCに対する磁化強度が高く、越境汚染の影響が示唆された。さらに、マグネタイトの光吸収への寄与はBCの最大5%に達することが判明し、従来のBC観測値が過大評価されていた可能性も示された。――この成果は、燃焼源の識別や気候影響モデルの精度向上に貢献するものであり、今後は自動車交通や製鉄所など他の排出源に着目した調査の展開が求められる。研究はJST SPRING、CREST、科学研究費補助金などの支援を受けて実施された。