マツヘリカメムシ、西表島で国内初確認~全国的な拡散が懸念
発表日:2025.07.30
琉球大学熱帯生物圏研究センター西表研究施設の和智仲是助教は、2024年12月、西表島の施設内トイレ網戸で北米原産の外来種「マツヘリカメムシ(Leptoglossus occidentalis)」を発見した。これは八重山諸島で初めての記録であり、沖縄市立郷土博物館の刀禰浩一主任学芸員との共同調査により種の同定が行われた。
マツヘリカメムシはマツ科針葉樹の種子を加害する侵略的外来種であり、世界各地で「ブリッジヘッド・インベージョン」と呼ばれる拡散様式を示している。日本では2008年に東京で初記録されて以降、47都道府県中42で確認されており、沖縄本島では2019年に初記録、2022年には名護市・国頭村でも追加記録がある。
本研究では、市民科学プラットフォーム(iNaturalist、いきものログ)を活用し、国内外の分布記録を整理している。本種は台湾・中国・韓国・ロシアなど近隣諸国でも2020年代以降に記録が急増しており、西表島への侵入源として台湾が最も有力と推定された。ただし、現地でのライトトラップ調査では定着の証拠は得られておらず、偶発的な飛来の可能性も残る。
環境省は本種を「定着初期・限定分布」に分類しているが、今回の研究は既に全国的な定着・拡散が進行している可能性を示唆している。特に、滋賀・広島・鹿児島など文献未記録地域での市民科学による新産記録は、外来種評価とモニタリング方針の見直しに資する重要な知見である。――沖縄県では、外来昆虫の侵入が多く、米軍基地との関連も指摘される中、本種の分布パターンや高密度地点の偏在性についても慎重な検討が求められる。和智助教は、「今後は分子生態学的解析や標本比較を通じて、侵入経路の特定と定着リスクの評価を進める必要がある」と指摘している。