京大ら、物理法則を学習するAIで地熱システムを高精度モデリング
発表日:2025.08.08
京都大学大学院工学研究科附属工学基盤教育研究センターの石塚師也講師を中心とする研究グループは、九州大学、産業技術総合研究所、東北大学、米国ローレンス・バークレー国立研究所と共同で、地熱システムのモデリングに関する新たな機械学習手法を開発した(掲載誌:Journal of Geophysical Research – Machine Learning and Computation)。
本手法は、観測データに加えて地熱システムの自然法則を学習させることで、物理的妥当性の高い地下モデルの構築を可能にするものである。地熱資源は、低炭素かつ安定的な発電が可能な再生可能エネルギーとして注目されているが、地下の高温・高透水領域の分布や地熱流体の流動経路を把握するには、観測データに基づく精度の高いモデリングが不可欠である。従来の数値シミュレーションは信頼性が高い一方で、計算負荷が大きく、先験情報の不足が課題とされてきた。また、機械学習による手法は多量のデータを必要とするため、観測データが限られる地熱分野では信頼性に課題があった。
本研究では、物理法則を損失関数に組み込む「Physics-informedニューラルネットワーク」を応用し、保存則の勾配量を活用することで、少量の観測データでも物理法則に従った地熱モデルの構築を可能にした。実際に、葛根田地熱地域の3次元数値モデルに適用した結果、温度や流体圧分布の予測精度が向上し、流体の移動経路も現実的に再現された。さらに、地磁気地電流法(MT法)による電磁探査データを併用することで、浸透率構造の精度向上と温度・圧力分布の精緻化も達成された。――本手法は、地熱資源開発の促進や、複数の観測手法を統合した地熱システムの理解深化に貢献するものであり、機械学習を用いた地球システムモデリングの新たなアプローチと思われる。