水生植物の繁茂が湖岸CO₂交換の年変動と日内依存性を左右
発表日:2025.09.16
信州大学物質循環学コース・岩田拓記准教授らの研究グループは、諏訪湖を対象とする調査研究により、水生植物の繁茂が湖と大気との間のCO₂交換に与える影響を明らかにした(掲載誌:Journal of Geophysical Research: Biogeosciences)。
湖沼は陸面と大気の炭素交換において重要な役割を担っているが、湖岸部における水生植物の影響は十分に研究されてこなかった。特に、日内変化への影響は未解明であった。
研究グループは、富栄養湖である諏訪湖の湖岸部において、水生植物の繁茂状況が異なる2020年と2022年の2年間にわたり、渦相関法によるCO₂フラックスの連続測定を実施した。その結果、水生植物がほとんど繁茂しなかった2020年の夏には、最大のCO₂吸収が午後に観測された。これは、水面と大気の間の交換が主な経路となり、午後の強風による湖水混合と溶存CO₂濃度の低下が交換を促進したと考えられる。一方、水生植物が繁茂した2022年の夏には、最大のCO₂吸収が正午に観測された。湖面上に突き出た葉による光合成が主な交換経路となり、日射との同期性が強く現れた。また、年間のCO₂交換量は、2020年が14±7 gC/m²の炭素放出、2022年が−170±4 gC/m²の炭素吸収と試算され、水生植物の繁茂が年間の炭素収支の方向(吸収か放出か)を決定することが示された。さらに、夏季のCO₂交換の日内変動においても、水生植物の存在が環境依存性を左右することが明らかとなった。
本研究は、湖岸部における水生植物の炭素循環への寄与を定量的に示した初の事例であり、湖沼生態系の炭素収支評価において植生の動態を考慮する必要性を示唆するものである。研究者は、「今後は、湖沼管理や炭素吸収源としての評価において、水生植物の繁茂状況を指標としたモニタリング手法の開発が求められる」と提言している。
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