JAMSTECら、海洋酸性化下での巻貝幼生の殻形成障害を可視化
発表日:2025.09.18
海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、東京大学総合研究博物館との共同研究により、海洋酸性化が貝類幼生の貝殻形成に与える影響を定量的に評価する新手法を開発した(掲載誌:Journal of Molluscan Studies)。
海洋酸性化とは、大気中のCO₂が海水に溶け込むことでpHが低下し、炭酸カルシウムの結晶であるアラゴナイトの飽和度(Ωaragonite)が低下する現象である。アラゴナイトは貝類やサンゴなどの石灰化生物が殻や骨格を形成する際に用いる物質であり、飽和度の低下は殻形成の阻害や既存殻の溶解を引き起こす。――本研究では、日本沿岸に分布する巻貝「クサイロアオガイ」の幼生を対象に、将来の海洋酸性化を模した環境下で飼育実験を実施。JAMSTECが独自開発した高解像度マイクロフォーカスX線CT(MXCT)を用いて、貝殻の厚さ・体積・密度を三次元的に測定した。さらに、走査型電子顕微鏡(SEM)による表面構造の観察と、貝殻形成に関与する遺伝子の発現領域の可視化も行った。その結果、酸性化環境下では貝殻が小型化・薄型化し、密度が約30%低下。表面構造も不明瞭となり、貝殻形成に関わる遺伝子の発現領域が約30%縮小することが明らかとなった。
これらの変化は、貝類幼生が酸性化に対して極めて高い感受性を持つことを示しており、個体群維持や水産資源への影響が懸念される。
本手法は、従来の光学・電子顕微鏡では困難だった微小殻の定量評価を可能にし、ウニやサンゴなど他の石灰化生物にも応用可能である。今後は、国際展開を視野に入れ、海洋環境変化に対する生物応答の予測や、水産資源管理・生態系保全戦略の科学的基盤として活用されることが期待される。
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