大気海洋研ら、黒潮域の微生物群集構造を環境DNA解析
発表日:2025.11.28
東京大学大気海洋研究所と香港科技大学を中心とする研究チームは、黒潮域における海洋微生物群集の構造と分布パターンを、環境DNAのメタバーコーディング解析により包括的に解明した(掲載誌:Frontiers in Marine Science)。
本研究は、原核生物と真核微生物の群集構造に影響する要因を比較し、海洋生態系の基盤を担う微生物群集の役割を明確化することを目的としたものである。――海洋にはバクテリアから植物・動物プランクトンまで多様な微生物が存在し、魚類など高次生物へのエネルギー供給を通じて食物網を支えている。しかし、これまで原核生物と真核微生物の分布要因を同時に解析した研究は限られていた。黒潮域は漁業生産に直結する重要な生態系であり、その構造理解は資源管理や生態系保全に不可欠である。
今回、研究チームは黒潮域の表層海水から採取した環境DNAを解析し、原核生物群集は水塊の物理環境や植物プランクトン由来の物質に強く影響される一方、真核微生物群集は一部が局所的なブルームを形成し、微生物食物網を変化させることを示した。これにより、両者の分布パターンは類似する部分があるものの、異なる環境要因が作用していることが明らかになった。
研究者は、この成果は「黒潮生態系の構造や機能の理解を深め、漁業資源の持続的利用に資する知見を提供する」ものと述べている。今後は、微生物群集の変動をモニタリングし、海洋生態系のレジリエンス評価や資源管理への活用が期待されるという。