船舶レーダーでコウモリ検出率70%超—環境アセスへの応用に期待
発表日:2025.12.15
新潟大学佐渡自然共生科学センターの佐藤雄大特任助教と河口洋一教授らの研究グループは、Xバンド船舶レーダー(X‑band marine radar)を用いたヒナコウモリ(Vespertilio sinensis)の調査法を提案した。レーダー設置法と有効観測距離の実用性を評価した結果、従来の目視や録音に比べて、広域調査に適しており、風力発電所の環境アセスメントに活用できる可能性が示された(掲載誌:PLoS One)。
風力発電の導入拡大に伴いコウモリの死亡事故(バットストライク)が国内外で増加している。日本の風力発電所でも本種の事故報告が多く、コウモリが夜行性で高速飛翔するため、広範囲でその生息状況を調べるのが困難であった。また、従来の目視等による検知は数10 m程度の範囲が限界であり、大規模な風力発電事業計画地では空間スケールの整合が取りにくいという問題もあった。
こうした状況を踏まえ、本研究では、波長が短く空間分解能が高いXバンド(X‑band, 8–12 GHz/船舶用は9.4 GHz)レーダーと、地面や構造物からの余分な反射(クラッタ)を減らす現場設置の工夫を採り入れ、広域モニタリングを試行した。具体的には、遮蔽物(植生)条件に応じてアンテナ高さを調整し、半径1.5 km以内のクラッタ量を約70%低減する方法を最適化するとともに、測距双眼鏡(rangefinder binoculars)で得た三次元飛翔軌跡とレーダーエコー(radar echo)を同期させることで、自由飛翔個体の同定・追跡精度を評価する4ステップからなする解析手順を構築した。その結果、レーダー中心から半径1 km以内でのコウモリエコー検出率は70%以上に達し、長期モニタリングや移動経路把握に有用な観測距離も確認できた。
研究グループは、「風力発電事業の事前評価や本種の広域生態把握の双方に資するツールとしての活用見通し」を述べており、今後はレーダー像からの高精度な種・対象識別法の確立により、渡り行動などの移動生態理解の進展が期待されるという。なお、本研究は環境研究総合推進費および科学研究費助成事業の支援により実施されたものである。