測定物質及び測定方法について

大気汚染物質

大気汚染常時監視測定局で測定されている物質のうち、「日本の大気環境Light版」では、環境基準が設定されている下記7種類の大気汚染物質の常時監視結果を表示している。

略称 物質名 単位 物質の説明(環境影響等)
SO2 二酸化硫黄 ppm 石油、石炭等を燃焼したときに含有される硫黄 (S) が酸化されて発生するもので、高濃度で呼吸器に影響を及ぼすほか、森林や湖沼等に影響を与える酸性雨の原因物質になると言われている。
NO2 二酸化窒素 ppm 窒素酸化物は、ものの燃焼や化学反応によって生じる窒素と酸素の化合物で、主として一酸化窒素 (NO) と二酸化窒素 (NO2) の形で大気中に存在する。発生源は、工場・事業場、自動車、家庭等多種多様で、大部分が一酸化窒素として排出されるが、大気中で酸化されて二酸化窒素になる。二酸化窒素は、高濃度で呼吸器に影響を及ぼすほか、酸性雨及び光化学オキシダントの原因物質になると言われている。
CO 一酸化炭素 ppm 炭素化合物の不完全燃焼等により発生し、血液中のヘモグロビンと結合して、酸素を運搬する機能を阻害する等の影響を及ぼすほか、温室効果ガスである大気中のメタンの寿命を長くすることが知られている。
OX 光化学オキシダント ppm 大気中の窒素酸化物や炭化水素が太陽の紫外線を受けて化学反応を起こし発生する汚染物質で、光化学スモッグの原因となり、高濃度では、粘膜を刺激し、呼吸器への影響を及ぼすほか、農作物等植物への影響も観察されている。
NMHC 非メタン炭化水素 ppmC 炭化水素は、炭素と水素が結合した有機物の総称である。大気中の炭化水素濃度の評価には、光化学反応に関与する非メタン炭化水素が用いられる。
SPM 浮遊粒子状物質 mg/m3 浮遊粉じんのうち、10μm 以下の粒子状物質のことをいい、ボイラーや自動車の排出ガス等から発生するもので、大気中に長時間滞留し、高濃度で肺や気管等に沈着して呼吸器に影響を及ぼす。
PM2.5 微小粒子状物質 μg/m3 大気中に浮遊する粒子状物質であって、その粒径が概ね 2.5μm 以下の粒子をいう。粒径がより小さくなることから、肺の奥深くまで入りやすく、呼吸器疾患、循環器疾患及び肺がんの疾患に関して総体として人々の健康に一定の影響を与えているとされている。

環境GIS+」では、さらに下記5種類の大気汚染物質の常時監視結果も表示している。

略称 物質名 単位 物質の説明(環境影響等)
NO 一酸化窒素 ppm 上記のNO2の項目を参照
NOX 窒素酸化物 ppm
CH4 メタン ppmC 上記のNMHCの項目を参照
THC 全炭化水素 ppmC
SP 浮遊粉じん mg/m3 大気中に長時間浮遊しているばいじん、粉じん等をいう。ばいじんとは、ものの燃焼によって生じたすす等の固体粒子を総称したものをいう。

(備考)単位の説明

  • ppm : 容量比や重量比を表す単位で、1ppm とは、空気 1m3 中に物質が 1cm3 含まれる場合をいう。ppm は、「part per million」の略称で100万分の1 のことをいう。
  • ppmC : 大気中の炭化水素類を表す単位で、1ppmC とは、空気 1m3 中にメタンに換算された物質が 1cm3 含まれる場合をいう。
  • mg/m3 : 重量濃度を表す単位で、1mg/m3 とは、空気 1m3 中に物質が 1mg 含まれる場合をいう。
  • μg/m3 : 重量濃度を表す単位で、1μg/m3 とは、空気 1m3 中に物質が 1μg (0.001mg) 含まれる場合をいう。

測定方法

大気汚染物質の測定方法の概要は、次のとおりである。

窒素酸化物 (NOX・NO・NO2)
窒素酸化物の測定方法は、従来から標準方法として定められている吸光光度法(湿式測定法)のほか、化学発光法(乾式測定法)が平成8年10月以降追加されている。
吸光光度法 試料大気を吸収液(N-1-ナフチルエチレンジアミン・二塩酸塩、スファニル酸及び酢酸の混合液)に通じると、大気中の二酸化窒素はジアゾ化スルファニル酸塩として吸収され、N-1-ナフチルエチレンジアミンとのカップリング反応により赤紫色に発色する。この発色の545nm における吸光度を測定することにより、試料大気中の二酸化窒素濃度を測定する方法である。一酸化窒素はこれらの試薬(ザルツマン試薬)とは反応しないので、試料大気を硫酸酸性過マンガン酸カリウムの酸化液を通じて二酸化窒素に酸化した後、同様の測定を行う。
化学発光法 試料大気にオゾンを反応させると、一酸化窒素から励起状態の二酸化窒素が生じ、これが基底状態に戻るときに光を発する(化学発光)。この化学発光の強度を測定することにより、試料大気中の一酸化窒素の濃度を測定する方法である。一方、試料大気をコンバータと呼ばれる変換器に通じて二酸化窒素を一酸化窒素に変換した上で化学発光の強度を測定すると、試料大気中の窒素酸化物(一酸化窒素+二酸化窒素)の濃度が測定できるため、これらの測定値の差を求めることによって、試料大気中の二酸化窒素の濃度を測定することができる。
浮遊粒子状物質 (SPM)
浮遊粒子状物質の標準測定方法としては、重量濃度測定法が採用されており、通常、10μm を超える粒子を除去する装置として多段型分粒装置又はサイクロン式分粒装置を装着したローボリウムエアサンプラーを用いて、ろ紙上に粒子状物質を捕集し、測定する方法が用いられる。
しかし、この標準測定方法では、環境基準が定められている1時間値を計測することができないため、この方法によって測定された重量濃度と直線的な関係を有する量が得られる光散乱法、圧電天びん法もしくはベータ線吸収法によって行われている。
光散乱法 試料大気に光を照射し、その散乱光の強度を測定することにより、浮遊粒子状物質の相対濃度を測定する方法である。環境基準の適合性評価を行うためには、標準測定法との並行測定を行って、質量濃度への換算係数(F値)を求める必要がある。この換算係数は、湿度、粒径、組成の影響により地域的、時間的変動があり、注意が必要である。
圧電天びん法 圧電結晶振動を利用した測定法であり、浮遊粒子状物質を静電気的に水晶発振子上に捕集し、質量の増加に伴う水晶振動子の振動数の変化量を測定し、理論的に与えられた質量感度定数を用いて試料大気中の浮遊粒子状物質の質量濃度を測定する方法である。
ベータ線吸収法低いエネルギーのベータ線を物質に照射した場合、その物質の質量に比例してベータ線の吸収量が増加する原理を利用した測定法であり、ろ紙上に捕集した粒子状物質にベータ線を照射し、透過ベータ線強度を計測することにより、浮遊粒子状物質の質量濃度を測定する方法である。
光化学オキシダント (OX)
光化学オキシダントの測定方法は、従来から標準方法として定められている吸光光度法、電量法(湿式測定法)のほか、紫外線吸収法、化学発光法(乾式測定法)が平成8年10月以降追加されている。
吸光光度法 オキシダントを含む試料大気を中性ヨウ化カリウム溶液に通じると、ヨウ化カリウムが酸化されてヨウ素を遊離し、ヨウ化カリウム溶液中では黄褐色に発色する。この発色液の 365nm 付近における吸光度を測定することにより、試料大気中のオキシダント濃度を測定する方法である。
電量法試料大気を中性ヨウ化カリウム溶液に通じ、遊離したヨウ素を電量法によって測定することにより、試料大気中のオキシダント濃度を測定する方法である。
紫外線吸収法 試料大気に波長 254nm 付近の紫外線を照射し、オゾンによって吸収される紫外線の量を測定することにより、試料大気中のオゾン濃度(光化学オキシダント濃度)を測定する方法である。
化学発光法 試料大気中のオゾンとエチレンを反応させると、励起状態のカルボニル化合物が生成され、これが基底状態に戻るときに光を発する(化学発光)。この化学発光の強度を測定することにより、試料大気中のオゾン濃度(光化学オキシダント濃度)を測定する方法である。
二酸化硫黄 (SO2)
二酸化硫黄の測定方法は、従来から標準方法として定められている溶液導電率法(湿式測定法)のほか、紫外線蛍光法(乾式測定法)が平成8年10月以降追加されている。
溶液導電率法 試料大気を硫酸酸性の過酸化水素水に通じると、試料大気に含まれる二酸化硫黄が吸収されて反応によって硫酸となり、吸収液の電気導電率を増加させる。この変化を測定することにより、試料大気中の二酸化硫黄濃度を測定する方法である。
紫外線蛍光法試料大気に比較的波長の短い紫外線を照射すると、これを吸収して励起した二酸化硫黄分子が基底状態に戻るときに蛍光を発する。この蛍光の強度を測定することにより試料大気中の二酸化硫黄濃度を測定する方法である。
一酸化炭素 (CO)
一酸化炭素の測定は、非分散型赤外分析計を用いる方法が定められている。
非分散型赤外線吸収法 物質を構成する分子は、それぞれ特定の波長域の赤外線を吸収し、圧力が一定のガス体では、濃度に対応した吸収を示す。非分散型赤外線吸収法は、この原理に基づいて一酸化炭素による赤外線吸収を測定することにより、試料大気中の一酸化炭素濃度を測定する方法である。
炭素水素 (THC、CH4、NMHC)
炭化水素の測定には、標準測定法としてメタン・非メタン炭化水素測定方式(直接法)が採用されている。炭素水素は昭和46年以降整備されるようになったが、当初その測定はメタン、非メタンの分離測定ができない全炭化水素自動測定機による測定であったが、昭和61年度以降なくなっている。全炭化水素・メタン測定方式(差量法)はプロパン応答比による校正を行うこととなっている。昭和55年度以前はこの校正を行っていない測定局が存在していたが、昭和56年度以降なくなっている。
直接法 試料大気中のメタンをガスクロマトグラフによって分離した後、水素炎イオン化検出器を用いてメタンと非メタン炭化水素とを測定する方法である。
水素炎イオン化検出器は、炭化水素を水素炎中で燃焼するときに生じるイオンによる微少電流を測定する方法であり、この電流の強さは炭化水素中の炭素数に比例するため、電流の強さを測定することにより、炭化水素濃度を炭素数換算濃度として知ることができる。
差量法 全炭化水素は、試料大気を直接、水素炎イオン化検出器に導入して測定し、メタンはガスクロマトグラフ分離管で試料大気から分離した後、水素炎イオン化検出器に導入して測定し、非メタン炭化水素を両者の差として求める方法である。
この方法は、検出部の酸素干渉に起因する応答特性等に問題があるが、プロパン応答比による補正を行う場合には、標準測定法と等価な測定法とみなされている。
微小粒子状物質 (PM2.5)
微小粒子状物質の標準測定法としては、米国 EPA の連邦標準測定法 (Federal Reference Method, FRM) に準じたフィルター捕集-質量法を採用している。しかし、標準測定法は、労力がかかることに加え、得られる測定値が1日平均値のみであり、かつ、秤量のため測定結果を得るまでに最短でも数日を要することから、常時監視には、標準測定法であるフィルター捕集-質量法によって測定された質量濃度と等価な値が得られると認められた自動測定機が用いられている。
ベータ線吸収法 低いエネルギーのベータ線を物質に照射した場合、その物質の単位面積当たりの質量に比例してベータ線の吸収量が増加することを利用した測定法であり、ろ紙上に捕集した微小粒子状物質にベータ線を照射し、透過ベータ線強度を計測することにより、微小粒子状物質の質量濃度を測定する方法である。
フィルター振動法 試料大気中の微小粒子状物質をフィルタ上に捕集し、その質量濃度を測定する方法である。振動数の変化量と捕集粒子の質量には一定の関係があることから、振動数の変化を計測することで捕集質量を算出し、吸引した試料大気量から微小粒子状物質の質量濃度を算出する方法である。
光散乱法 試料大気に光を照射し、その散乱光の強度を測定することにより、微小粒子状物質の質量濃度を算出する方法である。散乱光の強度は、微小粒子状物質の計上、粒径分布、屈折率等によって変化するが、これらの条件が同一であれば、微小粒子状物質の質量濃度との間に比例関係が成り立つことを利用した方法である。