人間の生活は、大気や水、地形や土壌、生態系など、あらゆる自然環境とつながりを持って成り立っている。このため、自然環境の変化は私たちの暮らしに大きな影響を及ぼす。こうした課題の一つが、いわゆる地球温暖化の問題だ。
南極には、大陸を覆うように堆積した「氷床」があり、厚さ約3千mにも及ぶ氷の中には、それぞれの氷が堆積した当時の大気や微粒子などが取り込まれている。このように、南極氷床は太古に至る地球環境のタイムカプセルであり、氷床を掘削することで過去の地球環境を解析することができる。
わが国の「第一期ドームふじ計画」(1990~1996)で掘削した2503mの氷床コアを解析することにより、70~80万年前から約10万年周期で気候が変動し、寒冷な「氷期」と温暖な「間氷期」が繰り返されていることが明らかになった。また、過去32万年間、気温と二酸化炭素濃度はきわめて類似した変動をしていることがわかった。
このように、過去の気候変動を復元し、そのメカニズムを解明することは、将来の気候を予測する上でも重要な意味を持っている。
地球の46億年の歴史の中では、ダイナミックな気候変動が起こり、氷期(寒い時期)と間氷期(暖かい時期)が繰り返されてきた。特に最近の気候変動に着目すると、約2万年前に「最終氷期」が最盛期(最も寒い時期)を迎えた後、約1万年前に温暖な「後氷期」に移りかわり、約6千年前に最も気温が上昇したと考えられている。
約6千年前の関東地方は、現在より平均海水温が約2℃、海面が約4m高くなっていたとされ、平野の低いところでは陸地の奥まで海が入り込んでいた。この現象を“縄文海進”といい、縄文時代の貝塚の分布や地層などを詳しく調べることで、当時の海岸線の位置や海の古環境が推定されている。これによると、現在の東京・日比谷周辺も、当時は海(入り江)だったと考えられている。
縄文時代の地球温暖化が、氷期から間氷期へ移る自然のサイクルであったのに対し、いま起きている地球温暖化は、化石燃料の排出など人為的な要因が大きいとされている。
南極の氷床コアを用いて、各年代の大気中の二酸化炭素濃度を推定すると、工業化以前の1750年頃には278ppm※程度であったと推定されている。一方、1950年代後半以降の二酸化炭素濃度は、季節変動を繰り返しながら年々増加する傾向にあり、2019年の世界平均濃度は410.5 ppmとなっており、産業革命以前と比べて48%増加している。このように二酸化炭素濃度が急激に増加している原因は、人間活動にともなう石油・石炭などの化石燃料の消費や、森林破壊などの土地利用の変化などといわれている。
二酸化炭素は、地表から放射される熱(赤外線)を吸収し、再び地表を暖める効果がある「温室効果ガス」の1つである。温室効果ガスは、地球の平均気温を約15℃に保つ役割を果たしており、もし温室効果ガスがなければ、地球の平均気温は-18℃になると考えられている。しかし一方で、産業革命以降の二酸化炭素濃度の上昇は、今日の地球温暖化の主な要因であるとされ、その排出量削減に向けて国際的な取り組みが進められている。