探究ノート

生物がつくる物質

 生物がエネルギーを得るための代謝には、大きく分類して「光合成」「発酵」「呼吸」の3種類がある。「光合成」は光エネルギーを化学エネルギーに変換する生化学反応、「発酵」と「呼吸」(好気呼吸・嫌気呼吸)は有機物の酸化反応によってエネルギーを生じる生化学反応である。こうして得たエネルギーを用いて、生物は生体反応を行い、またその副産物や最終生成物としてさまざまな物質を合成している。
 人類は、太古の昔から、衣食住や医薬品など生活のさまざまなシーンで、生物のつくる多様な物質を利用して、豊かで快適な生活を実現してきた。

光合成を視覚的に捉える ~地球の生命・大気環境維持に欠かせない、植物の光合成~

 光合成は、植物や藻類などのクロロフィル(葉緑素)をもつ生物が、光エネルギーを吸収・利用して、大気中の二酸化炭素と水から有機物を合成し、副産物として酸素を発生する反応である。
 植物の光合成能力を視覚的に捉える実験として、早稲田大学の園池研究室では、蛍光CCDカメラを用いた装置を開発している。左の写真は、デジタルカメラで撮影した、いわば「見た目」の写真で、大きい葉の一部が淡い緑のまだら模様になっており、緑色部分に較べてクロロフィルが少ないことが推測される。また、小さい葉は周縁部が完全に白色化している。一方、中央・右の写真は、蛍光CCDカメラを使って、クロロフィルから出る蛍光の強さを計測したもので、赤→黄→緑→青と蛍光が弱くなり、まったく蛍光がないところは黒く見える。
 中央の写真は、クロロフィルによる蛍光が最も強いときの状況を示しており、クロロフィルの有無がわかる。例えば、小さい葉の周縁部は真っ黒になっていることから、クロロフィルが無く、光合成が行われないことがわかる。一方、右の写真は、クロロフィルによる蛍光の強弱を示しており、大きな葉の淡い緑の部分は、光合成能力が低いことがわかる。
 蛍光CCDカメラによる測定では、光合成能力の定量的な測定はできないが、光合成の空間分布を直感的に理解するのに適している。

蛍光CCDカメラを使った光合成の可視化実験
出典:早稲田大学 園池研究室「光合成の森」

微生物による発酵 ~ミソの発酵と原料成分の変化~

 発酵とは、微生物が酸素を使わずに呼吸を行い(嫌気呼吸)、人間に有用な物質をつくる反応のことである。特に、味噌や醤油、チーズやヨーグルトなどの発酵食品の製造によく用いられる。
 味噌を例にとると、麹(こうじ)に含まれる麹菌(かびの一種)が、原料中のタンパク質やデンプンを分解し、うま味成分となるアミノ酸や、甘味成分となるグルコース(ブドウ糖)をつくる。グルコースは、酵母や乳酸菌の栄養源にもなり、増殖した乳酸菌から乳酸が生成される。乳酸は、酸味成分となるとともに、pHを下げて酵母が生育しやすい状態を作り出し、増殖した酵母によって、香り成分となるアルコールやエステルなどが生成される。こうして熟成が進んでいくと、やがて味噌ができあがる。
 このような微生物による発酵は、食品の製造に利用される以外にも、生ごみや家畜糞尿、未利用材などの生物由来の資源(バイオマス)から燃料を製造する際にも利用されている。

図1 味噌づくりにおける微生物の働きと原料成分の変化
出典:粟長醤油(株)「みその秘密」
図2 味噌や醤油の製造に使われる麹菌の電子顕微鏡写真
出典:東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻・応用生命工学専攻

バイオマス ~バイオマスの利用技術と利用形態~

 バイオマスとは、生物(bio)の量(mass)を表す生態学の概念であり、資源として見た場合は、化石資源(石油、石炭など)を除く、生物由来の再生可能な有機性資源のことをいう。代表的なバイオマスには、家畜排せつ物や食品廃棄物、建設発生木材、パルプ工場廃液(黒液)や下水汚泥といった「廃棄物系バイオマス」、間伐材や剪定枝などの林地残材や、稲わらやもみ殻などの「未利用バイオマス」、トウモロコシやナタネなど、エネルギーや製品の製造を目的に栽培される「資源作物バイオマス」がある。
 バイオマスは、発電や燃料などのエネルギー利用のほかに、さまざまな製品の素材(マテリアル)としても利用できるという特徴がある。いずれの利用形態でも、バイオマスを利用しやすい形に変換する必要があり、ガス化、液化、発酵などの技術が用いられている。
 近年、化石資源の消費や二酸化炭素の排出を削減するために、バイオマスからプラスチックを生成する技術が注目を集めている。バイオマスプラスチックは、バイオマスから生成するプラスチック原料を化学的に重合するものや、微生物の体内でバイオマスを重合させて生成するものなどがある。

バイオマスの利用技術と利用形態
出典:(C)東洋エンジニアリング(株)「バイオマス」

天然繊維 ~多くの工程が必要な糸づくり~

 繊維は、大きく分類すると、動物の毛・皮革や植物などからつくられる天然繊維と、化石燃料(石油など)から人工的につくられる化学繊維に分類される。これら有機化合物を原料素材とする繊維は有機繊維とも呼ばれるが、これらに対して、ガラス繊維や炭素繊維、セラミック繊維など無機化合物を原料とする無機繊維もある。
 天然繊維は、麻、綿のようにセルロースからなる植物性のものと、絹、羊毛、獣毛など動物性たんぱく質を原料にしたものに分かれる。一般的に、化学繊維に較べて繊維が細く短く形状が一定でない、アルカリには弱いが有機薬品(たとえば、アセトン、メタクレゾールなど)には強い、などの特徴を持つ。
 天然繊維の利用に際しては、繊維をいったんほぐしてから方向や太さを揃えて繊維を紡ぎ、撚りあわせる紡糸・撚糸などによって糸にし、こうしてつくった糸から布を織り、衣服等を製造するという複雑な工程を経る。産業革命によって機械化が進むまでは、糸を大量に生産して品質のよい衣服を製造するためには、大変な手間がかかっていた。

繊維の分類
出典:財団法人 大日本蚕糸会
手績み糸が出来るまで
出典:財団法人伝統的工芸品産業振興協会「伝統的工芸品づくりの材料・道具ネットワーク・データベース」