洪水が遺した大きな木は生態系回復に役立つ 東大など
発表日:2022.06.14
東京大学、北海道大学および帯広畜産大学の研究グループは、 洪水後に現れた砂礫堆において「大径の樹木遺体」が植物多様性の回復に貢献していることを実証した。枯れ木が昆虫や鳥の棲み家となることはよく知られており、近年では枯死木が森林生態系の回復に果たす役割やメカニズムの理解が進んでいる。生態学・環境学の分野では、洪水や火災によって攪乱された生態系に残る植物遺体などを遺産(レガシー)と呼ぶことがある。本研究は、100年に1度の確率で起きる大規模な洪水によって生じた 「大径の樹木遺体(以下『撹乱レガシー』)」が河川砂礫堆における植物多様性の回復に寄与する、という仮説の検証を試みたもの。「平成28年8月北海道豪雨」により未曾有の河川洪水が発生した、北海道の十勝川および札内川において現地調査が行われた(第一回:2017年秋、第二回:2018年初夏、第三回:2018年秋、第四回:2019年夏)。砂礫堆に残った「攪乱レガシー」近傍(距離:0 m、3 m、10 m)の植物多様性を評価した結果、対照区(レガシー不在サイト)に比べて顕著に植物種数が多いことが明らかになった。また、「攪乱レガシー」の直下(0 m)は他の測点に比べて植物種数が多く、多年生の在来種を中心に植物多様性が回復していく傾向が示唆された。砂礫堆に残る大径の樹木は、ともすれば不要な残骸と見られ、河川管理上、全て撤去されてしまう。気候変動に伴う大規模な洪水等(自然撹乱)の頻発化が懸念されることから、 全て取り除くのではなく、生態系の保全や回復のための「攪乱レガシー」として保持する考え方を採り入れることも重要、と提言している。
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