農工大、シカがカモシカに与える負の影響を直接証明
発表日:2025.05.02
東京農工大学農学部附属野生動物管理教育研究センターの髙田特任准教授を中心とする研究チームは、シカとカモシカの種間競争に関する直接的な証拠をつかまえた。既往研究では、"シカの増加がカモシカの生息地選択、活動パターン、生息地利用の傾向に負の影響(以下「負の影響」)”を与えることが知られている。この研究は、シカが高密度で生息する地域と低密度で生息する地域における詳細調査(食物条件、カモシカの採食行動、生理ストレス、個体群の状況)を通じて、「負の影響」を与えることの直接的な証拠を世界で初めて示したものとなる。──研究は長野県浅間山の高山帯で実施された。シカの高密度地域と低密度地域の二つの調査地を設定し、まず、各地域にランダムに設定した調査区で植物の量と多様性を調査した。その結果、シカの高密度地域ではカモシカの好む広葉草本の量と多様性が低下していることが示された。これは、シカの増加に伴う採食圧の増加がカモシカの食物条件を悪化させることを示唆している。次に、カモシカの警戒頻度と採食効率を評価するため、毎月1週間、カモシカの採食行動の直接観察を実施した。その結果、シカの高密度地域ではカモシカが採食中に警戒行動をとる頻度が高く、採食スピードが遅く、歩行スピードが速いことが示された。これは、シカの存在がカモシカの採食効率を低下させることを示唆している。さらに、カモシカの糞を採取し、生理ストレスの指標となる糞中コルチゾール代謝物濃度を測定した結果、シカの高密度地域で高いことが示された。これは、シカの高密度化がカモシカの生理ストレスを増加させることを示唆している。最後に、カモシカ個体群の状況を比較するため、見通しの良い観察場所から調査地全体を捜索し、カモシカの個体数と若齢個体の割合を記録した。その結果、シカの高密度地域ではカモシカの発見個体数が少なく、若齢個体の割合が低いことが示された。これは、シカの高密度化がカモシカ個体群の減少と老齢化を引き起こすことを示唆している。──これらの知見は、「負の影響」の存在にもならず、現在の日本の山岳生態系がいかにバランスを崩しているかを示している。今後、さらに多様な生息環境でシカとカモシカの種間関係を評価することが望まれる。
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