極端な低温環境に挑む!C. エレガンスで開く新薬開発の扉
発表日:2024.03.08
当初は胃薬として開発されたが、発売後に精神を持ち上げる効果が報告され、抗うつ薬として使用されるようになった薬もある。創薬研究は、新薬の開発のみならず、既存薬の改良やさらなる開発(育薬)を目的としており、有用な化学物質の探索等(薬剤スクリーニング)を起点とする多様な試験とともに進められている。厚生労働書の「人口動態統計」によると、近年、全国で“自然の過度の低温への曝露”によって亡くなった人の数は1,000人超を推移しており、熱中症による死亡数を上回り続けている。甲南大学大学院自然科学研究科の岡畑客員研究員、同大学理工学部の久原教授および大田特任研究講師らの研究チームは、シンプルな実験動物である線虫・Caenorhabditis elegansの低温耐性を解析してきた。今回、C. elegansの低温耐性現象を指標とする実験系を立ち上げ、約 4000 種類におよぶ薬剤スクリーニングを実行した結果、抗がん剤として知られるレプトマイシン B とカンプトテシンを線虫に投与すると低温耐性が獲得されることが明らかになった。また、レプトマイシン B等を投与することで、C. elegansのストレス応答因子などの遺伝子発現量が変化することや、腸のなかに低温耐性を制御する仕組みが存在することが分かった。“C. elegansを用いた効率的な実験系”は武田薬品工業(株)と共に立ち上げたもので、過度の低温に曝露した重篤患者を輸送する際の延命治療などに役立つ新薬の開発などに活かされる可能性が高い。久原教授は、「地球温暖化が進みますと異常気象が増え、冬の寒冷現象が局所的に厳しくなることも同時に起きます。例えば、2017年のドナウ川の凍結といった異常気象や、日本でもみられる異常な寒波などがあります。ヒトへの応用はまだまだ遠い道のりはありますが、そのような、異常寒冷現象が原因となる低体温症などを緩和させるための治療に、もしかしたらお役にたてるかも知れません。」と本成果を紹介している(DOI: https://www.nature.com/articles/s41598-024-55794-z)。
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