京大ら、アユ・ハゼの新指標で沿岸・内陸水域の物質連携を説明
発表日:2025.05.30
京都大学を中心とする研究グループは、アユやハゼ類などの両側回遊性魚類が、海から川へ移動する過程で「海らしさ(海由来の物質の割合)」を失いながらも、川に海の物質を届けていることを定量的に示した。これは、低〜中緯度地域における海と川の物質循環の理解を深める重要な成果である。
両側回遊性魚類とは、川で孵化後に海で初期成長し、再び川に戻って成長・繁殖する魚類であり、日本ではアユやヨシノボリ類などが該当する。これらの魚は、体内に蓄えた海由来の物質を川に持ち込むことで、川の生態系に栄養を供給する役割を果たしていると考えられてきたが、その実態は十分に解明されていなかった。
研究グループは、和歌山県の河川で9種の両側回遊性魚類を対象に1年間にわたり週1回のサンプリングを実施し、硫黄安定同位体比を用いて体内の海由来物質の割合(海らしさ)を推定した。その結果、海らしさは種間で11〜82%と大きく異なり、上流に生息する種ほど高い傾向が見られた。また、同一種内でも体サイズや移動時期によって海らしさに差があり、早期に移動し小型の個体ほど高い海らしさを保持していた。
この研究は、魚の重量だけでなく、海らしさという新たな指標を用いることで、海から川への物質輸送の量や季節性をより正確に評価できることを示した。今後は、これらの魚が川の生物多様性や物質循環に与える影響をさらに明らかにする予定である。──研究代表の田中良輔氏は「川と海の分断が進む中で、両側回遊性魚類が果たす役割を明らかにすることは、川や海の生態系の健全性を保つ一助になる」と述べている。