【やさしい解説】"隠れた種多様性"が示す小笠原の独自性
発表日:2025.12.19
海洋研究開発機構(JAMSTEC)、昭和医科大学、東京大学、北海道大学などの研究チームは、小笠原諸島に生息する「リクヒモムシ」を対象に、DNA解析による種の再評価を行った。リクヒモムシは紐形動物門に属する無脊椎動物で、リクヒモムシ(<i>Geonemertes</i>)属に分類される。湿った落ち葉や石の下にすみ、クモや昆虫を捕食する肉食性の生物だ。今回の研究で、見た目はそっくりでも、小笠原の個体群は世界の熱帯島嶼に広く分布する仲間とは異なる系統であることが判明した。このような種の違いは、「隠れた種多様性(Unrecognized Species-Level Diversity)」と呼ばれる(掲載誌:BMC Ecology and Evolution)。
なぜ形態だけでは見分けられないのか?紐形動物は柔らかい体で特徴が少なく、外見による識別が難しい。そこで研究チームは、ミトコンドリアDNAを用いた分子系統解析を実施した。結果、小笠原系統と沖縄・海外の広域分布系統では、ゲノムサイズや遺伝子配置が大きく異なり、遺伝的差異は同種内の変異を超えていた。これは、形態観察だけでは把握できない進化的分化を示している。
この発見は、生態系保全にも直結する。どの種がどこにいるかを正確に把握することは、外来種の影響評価や保護戦略の基盤となる。小笠原のリクヒモムシは強力な捕食者で、在来種に影響を与える可能性があるため、DNA情報に基づく種同定は科学的管理に不可欠だ。また、1980年代に採集された博物館標本の再調査により、小笠原系統が長期間定着していたことも確認された。こうした古い標本と最新のDNA解析を組み合わせる手法は、島嶼生態系の変化を長期的に理解するための重要なアプローチである。
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