グローバルサウスの感染空白が明らかに!鳥類糞便AIVs監視の成果
発表日:2025.06.02
山形大学医学部の研究者が主導する国際共同研究チームは、これまで感染症監視が十分に行われてこなかった「グローバルサウス(アジア、アフリカ、中東の新興国・途上国)」において、野鳥の糞便を用いた環境サーベイランスを実施し、H5N1を含む多様な鳥インフルエンザウイルス(AIVs)を検出した。この成果は、英国の科学誌『Nature Communications』に掲載された。
現地調査は2021年12月から2023年2月にかけて、10カ国52地点で実施され、計27,036件のサンプルが採取された。各サンプルについては、AIVの有無を判定するだけでなく、ウイルスRNA(リボ核酸)の濃度も測定され、感染の広がりや季節変動を定量的に評価した。その結果、「AIV RNAが検出された割合(AIV陽性率)」は国や地域によって大きく異なり、ソマリア(6.45%)、イエメン(6.36%)、モザンビーク(5.78%)などで高い値が記録された。これは、グローバルサウスにおいて、これまで未確認だった感染ホットスポットが存在していることを示している。一方、RNA濃度の推移を分析したところ、2022年12月から2023年2月にかけて多くの国でピークを迎えていた。これは、渡り鳥の繁殖・越冬行動や気候条件と密接に関連しており、熱帯・亜熱帯地域におけるウイルス動態の複雑さを示唆するものである。特にパプアニューギニア、インドネシア、フィリピンでは、感染が確認されたサンプルの中にさまざまな種類のウイルスが含まれており、これらの地域では異なるウイルス同士が混ざり合い、新しいタイプのウイルスが生まれる可能性があると考えられた。さらに、系統解析の結果、検出されたH5N1株の多くは、現在アメリカの乳牛で流行しているクレード2.3.4.4bと近縁であり、アジア・中東・アフリカ・南北アメリカの株とも遺伝的に関連していた。これは、渡り鳥を介した大陸間伝播の可能性を示すものである。また、ソマリア、イエメン、モルディブで検出されたH5N1株の一部には、抗インフルエンザ薬オセルタミビルに対する耐性変異(H275Y)が確認された。
山形大学の研究者らは、「本研究は、世界的な感染症監視の空白を埋めるとともに、将来のパンデミックリスクに対する深刻な警鐘を鳴らすものである」と述べている。特に、政治的不安定やインフラ未整備が続く地域では、野鳥と人間の接触機会が増加しており、ウイルスの人獣共通感染リスクが高まっていると指摘している。本研究は、グローバルな感染症監視体制の不均衡に対し、地域に根ざした持続的な監視モデルの必要性を示すものであり、国際的な公衆衛生戦略の再構築に一石を投じる成果である。
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