環境技術解説

REACH

 欧州議会本会議で2006年12月13日に可決されたREACHが、2007年6月1日に発効します。REACH(リーチ)は、Registration(登録) Evaluation(評価)Authorization(認可)of Chemicals(化学物質)の略称で、EUの新しい統一的な化学物質規制です。欧州内の規制とはいえ、輸出実績をもつ企業はもとより、少なからざる日本企業においてもその規制に対応することが不可欠となっただけに、各方面で大きな関心を呼んでいます。制定の経緯とあわせて、その概要を整理します。

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1.REACH規制の概要

 REACHは、化学物質の危険から人間の健康と環境を保護することを目的としつつ、EU の化学産業の技術革新力と競争力の強化も念頭においたものです。
 REACHは次のような要件が柱となった制度です。
 化学物質を年間1トン以上製造・輸入している場合、EU域内のすべての製造・輸入業者は、新設される予定の欧州化学物質庁のデータベースへ、その化学物質に関する情報を登録しなければなりません。この登録がなければ、その化学物質は製造したり輸入したりすることはできません。登録の内容は、製造・輸入量の多寡などによって異なります。
 登録された内容は、欧州化学物質庁によって評価され、必要があれば、さらなる試験・情報の提供が要求されます。また、高懸念物質は用途ごとに認可が必要となります。さらに、行政庁の評価の結果、リスク軽減措置が必要とされた場合には、製造や上市、使用が制限されます。

表1 REACHの主な要件
制度項目 内容
登録
○ 対象は年間の製造・輸入量が、事業者あたり1トン以上の化学物質
○ 製造・輸入事業者は、登録のために欧州化学物質庁に次の情報を提出することが必要
・  技術書類一式(登録者情報、物質の特定、用途、分類・表示、有害性情報、安全な使用に関するガイダンスなど)
・  年間の製造・輸入量が事業者あたり10トン以上の化学物質については、化学物質安全性評価報告(有害性評価、リスク評価)の追加が必要
○ 既存化学物質※1の登録は、事業者あたりの製造・輸入量の程度に応じて登録期限を設定
評価
○ 欧州化学物質庁は化学物質安全性評価報告の内容を評価し、必要に応じて、追加試験の実施または追加情報を事業者に要求
○ 欧州化学物質庁は、高懸念物質※2でばく露があり、事業者あたり年間100トンを超える量が使用される物質から優先的に評価を実施
認可
○ 事業者が高懸念物質を使用するには、欧州化学物質庁に申請して認可を得ることが必要
○ 認可を有する事業者および川下※3ユーザーは、上市※4前にラベル上に認可番号を記載することが必要
制限
○ 欧州化学物質庁が実施したリスク評価の結果、リスク軽減措置が必要な場合には、製造、上市、使用を制限
※1 既存化学物質:化学物質規制が開始された時点で既に市場に流通していた化学物質
※2高懸念物質:CMR(発がん性、変異原性、生殖毒性物質)、PBT(難分解性、生物蓄積性、毒性物質)、vPvB(難分解性と生物蓄積性が極めて高い物資)など。今後、具体的な物質リストが作成される予定
※3川下:流通の比喩。原料供給メーカーを川上、完成品製造メーカーを川下という
※4上市:製品を共同体市場で初めて入手可能にするための最初の行為であり、当該製品が製造者から流通業者や最終消費者・使用者に譲渡される際に起こること

2.REACHにおける登録

 既存化学物質の登録にあたっては、事業者あたりの年間製造・輸入量の程度やリスクに応じて登録期限が設けられています。ただし、2008年6月1日から11月30日までの間に予備登録をしておく必要があります。

図1 登録のスケジュール

図1 登録のスケジュール(REACH in brief より環境省作成)

 登録する化学物質の対象には調剤(2つ以上の化学物質からなる混合物、溶剤など)や成形品も含まれています。製造・輸入事業者は、年間で総量が1トンを超える化学物質で、成形品からの放出が意図されている場合には登録をしなければならないとされています。

 なお、成形品からの意図放出とは、「放出が使用に不可欠で、逆に物質の放出が無ければその成形品が十分に機能しない場合(例えば、フェルトペンのインキ)」または「放出が成形品の質や副次的な機能に寄与し、あるいは最終的な使用における成形品の機能に直接的に関連しないが新たな価値を与える場合(例えば、匂いつき消しゴムの香り成分)」と定義されています。

3.サプライチェーン上の情報伝達

 化学物質や調剤の供給者は、川下使用者に対して、化学物質・調剤の情報を伝達しなければなりません。
 また、成形品中に0.1重量%を超える濃度で含有される高懸念物質については、成形品の供給者は川下の受給者に少なくともその物質の名前を含む、安全に使用できる十分な情報を提供しなければなりません。

4.REACH規制の特徴

 REACHには、次のような画期的な特徴があります。これらの特徴の多くは、日本の法規制ではまだみられないものです。

表2 REACH規制の特徴
特徴 内容
規制の統合 新規化学物質だけでなく、既存化学物質についても登録等を義務づけ、複雑な化学物質法規制体系をシンプルにしたこと
産業界への義務化 安全性評価の義務を、規制当局から産業界に移管したこと
事業者ごとの登録 原則、事業者ごとに登録等を義務づけたこと(個別事業者の取扱い量によって規制レベルが異なる)
特定物質の使用禁止 特定の有害性物質は原則として使用禁止
サプライチェーンでの管理、
成形品への規制
・  成形品に含まれる物質についても、一定の条件を満たせば登録・届出等を義務づけたこと
・  必要な場合、川下ユーザーにも安全性評価等を義務づけたこと
・  サプライチェーン上に情報提供を義務づけたこと

5.REACH規制の歴史的背景と世界の動向

 1992年(平成4年)リオ・デ・ジャネイロ(ブラジル)で地球サミット(国連環境開発会議)が開催され、21世紀に向けて持続可能な開発を実現するための具体的な行動計画である「アジェンダ21」が採択されました。
 REACH規制は、この「アジェンダ21」において、「有害かつ危険な製品の不法な国際取引の防止を含む有害化学物質の環境上適正な管理」などがうたわれたことに、端を発しています。その後、1998年にEU環境理事会にて、化学物質に関する域内の規制と情報の欠如について懸念が提起され、REACH規制が具体的に進展するきっかけになりました。そして2001年に、欧州委員会が「将来の化学物質政策のための戦略に関する白書2001年」を作成し採択されましたが、その白書にはじめてREACHが登場しました。

●WEEE指令 廃電気電子機器指令。電気・電子機器廃棄物を対象に、設計や分別・回収、リサイクルのそれぞれの段階で、加盟国や販売業者、生産者などに対して義務を課すものです。
●RoHS指令 電気電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限に関する指令。電気電子機器指令と略されます。電気・電子機器に対する鉛などの有害物質の使用を制限しています。

 このような経緯は、すでにEU内で発効しているWEEE指令やRoHS指令が制定された経緯と同じ流れのなかにあるといえます。


 日本では、2006年7月に資源有効利用促進法改正政省令が施行され、特定化学物質を含有する特定7品目に対して表示が義務づけられました。
 また中国でも、2007年3月から中国版RoHSともいうべき「電子製品汚染制御管理弁法」がスタートしました。当面はEUのRoHS対象の特定有害物質の表示義務などが主となりますが、いずれ含有制限も加えられると見込まれます。
 この他、韓国やアルゼンチン、オーストラリアにおいてもRoHS法制定の動きがあり、いまやEUから発せられた化学物質の管理政策は国際標準になろうとしています。REACHについてもRoHSと同様に、世界中に大きな影響を与えることは必定で、こうした動きは企業における経営方針の環境志向への転換を迫るものと考えられています。
 REACHについては、本年6月発効から来年までには、具体的な物質など、詳細情報の進展があると思われます。環境省の「化学物質をめぐる国際潮流について」のサイトでは、REACHに関するQ&Aを含めて、欧州委員会の文書(環境省仮訳)を順次掲載しています。こちらも逐次ご参考にしてください。

引用・参考資料など

1)環境省
「化学物質をめぐる国際潮流について」
「化学物質国際対応ネットワーク」
2)経済産業省
「欧州の新たな化学品規制(REACH規則)の概要」
3)日本機械輸出組合ブラッセル事務所 徳増伸二
「REACH(欧州新化学品規制)の概要と動向」
4)(独)中小企業基盤整備機構
「ここが知りたいRoHS指令」
(2007年2月現在)