人口減少がもたらす生物多様性損失―里地里山158地点の実証分析
発表日:2025.06.13
東京都市大学、シェフィールド大学、日本自然保護協会(NACS-J)、近畿大学の研究グループは、日本全国158地点の里地里山を対象に、人口動態と生物多様性の関係を解析した。その結果、人口減少が必ずしも生物多様性の回復につながらず、むしろ鳥類やチョウ類などの減少を招く可能性があることが明らかとなった。
本研究では、環境省の「モニタリングサイト1000里地調査」に基づき、450種以上の動植物と約3,000種の植物に関する中長期データを用いて、人口・土地利用・地表温度の変化との関連を分析した。調査対象には、農地、草地、池、水路、人工林などを含む里地里山景観が含まれる。
従来、人口減少が生態系の回復を促す「人口減少の恩恵(depopulation dividend)」が期待されていたが、本研究はその仮説を否定する結果を示した。特に鳥類では、人口増加地域でも減少傾向が強く、チョウ類では地域によって増減が異なるなど、分類群ごとの影響の違いも明らかとなった。
また、人口減少地域においても開発が継続されており、グレイインフラの増加や里地里山の管理放棄が生物多様性の損失を加速させている。これまで全国規模で管理放棄の影響を定量的に示した研究は少なく、本研究はその点でも意義が大きい。
研究者らは、人口減少が生物多様性の回復を自動的にもたらすものではなく、積極的な管理と長期的なモニタリングが不可欠であると指摘している。特に、伝統的な農業や森林管理などの生業の持続が、里地里山の生物多様性維持に重要であると考えられる(掲載誌:Nature Sustainability)。