「デジタル化石マイニング技術」が示す白亜紀海洋生物の実像
発表日:2025.06.27
北海道大学大学院理学研究院と高輝度光科学研究センター(JASRI)は、岩石中の化石を完全な形で抽出・可視化する「デジタル化石マイニング技術」を開発し、これを用いて白亜紀後期の地層から263個のイカ類化石を発見した。これは従来1個しか知られていなかったイカ類化石の記録を大幅に更新する成果である。
本技術は、岩石をμmスケールで研磨・撮影し、内部構造をフルカラー・高解像度で3Dデジタル化する破壊型トモグラフィ装置を用いるもので、従来の産業用CTスキャンの16億倍の情報量を持ち、化石の発見確率を1万倍に向上させる。JASRIとの連携により、可視化・分析・分類の一連の工程がサイバー空間上で完結する点が特徴である。
この手法により、平均サイズ3.87mmの微小なクチバシ化石が大量に発見され、5科23属40種に分類された。そのうち39種が新種であり、現生の開眼目・閉眼目に属する種と極めて近縁であることが判明した。最古の標本は約1億年前のもので、これまでの記録より最大5,500万年古く、イカ類が白亜紀前期/後期境界付近に誕生し、600万年の間に爆発的に多様化したことが明らかになった。 さらに、同時代のアンモナイトや魚類と比較した結果、イカ類は白亜紀後期の遊泳性生物中で最大の生物量を持っていたことが示された。これは、従来の古生物学が化石保存の偏り(サンプリングバイアス)により、イカ類の存在を過小評価していたことを意味する。──本研究は、化石の発見から分析・公開までを完全にデジタル化した初の試みであり、古生物学の方法論を根本から変革するものである(掲載誌:Science)。なお、デジタル標本はオンラインで公開され、誰でもアクセス可能である。
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