南インド洋の温暖化が南極に波及―名大ら気候変動の新連鎖を解明
発表日:2025.08.07
名古屋大学宇宙地球環境研究所、国立極地研究所、北見工業大学による研究グループは、南極東部の氷床内陸域における気候変動を初めて解析し、1990年代以降、同地域で温暖化が継続していることを明らかにした(掲載誌:Nature Communications)。
本研究の観測には、日本の南極地域観測隊(JARE)が設置した無人気象観測装置による30年分の地上気温データが用いられた。解析対象は、ドームふじ基地、中継拠点、みずほ基地の3地点であり、1993年から2022年までの月平均気温データを収集・補正した結果、年平均気温は世界平均(0.2〜0.25℃/10年)を上回る0.45〜0.72℃/10年の速度で上昇していることが判明した。特に春〜夏(10月〜3月)の暖候期において、温暖化の進行が顕著である。さらに、南インド洋の海面水温上昇が、南極内陸域の温暖化を引き起こしていることが示された。南インド洋では、亜熱帯フロント帯の水温勾配が強まり、それに伴う大気循環の変化が南極内陸域に暖気を輸送している。この双極子型の大気応答は、中緯度域に低気圧、高緯度域に高気圧を形成し、南極内陸域の気温上昇を促進する。
このプロセスは、地球温暖化の停滞期(ハイエイタス)における海洋熱吸収の影響とも関連しており、インドネシア通過流や南赤道海流を通じて暖水が南インド洋に輸送された結果、当該地域の温暖化が進行したとされる。人為的な温室効果ガスの影響も含まれており、南極内陸域の温暖化にも人間活動が間接的に寄与している可能性がある。――本研究は、南極内陸域の気候変動を早期に検出する重要性を示すとともに、沿岸域における氷床融解の予測精度向上にも資する。現在の気候モデルではこのプロセスが再現されておらず、研究グループは南極の温暖化予測が過小評価されている可能性があると指摘している。
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