ハチと人間の軋轢で都市を分析―生態系ディスサービスの視点から
発表日:2025.08.21
神戸大学大学院人間発達環境学研究科と九州大学大学院理学研究院の研究グループは、神戸市におけるスズメバチ類の駆除依頼記録7,916件(2019~2021年)を分析し、都市化度によってスズメバチ属とアシナガバチ属の人間との軋轢パターンが異なることを明らかにした(掲載誌:Urban Ecosystems)。
スズメバチ類は生態系のバランス維持に寄与する一方、刺傷事故による死亡例も報告されており、都市部では人間との軋轢が深刻な問題となっている。研究グループは、神戸市内の779地区を対象に、土地利用・人口データと駆除依頼記録を統合解析。神戸市が私有住宅の駆除費用を全額補助していたことから、経済的バイアスの少ない網羅的なデータセットが得られた。
解析には、蜂の採餌範囲(半径1km)を考慮した土地利用評価と、一般化線形混合モデルによる統計解析を用いた。その結果、スズメバチ属は都市化度15~20%の低度都市化地域(農村部)で駆除依頼が最多となり、アシナガバチ属は都市化度40%程度の中度都市化地域(郊外ニュータウン)で多く駆除されていた。高度都市化地域では両属とも駆除依頼が減少する傾向が確認された。特にアシナガバチは、1960~70年代に開発された郊外住宅地に集中しており、住民の昆虫に対する知識や寛容性が農村部より低い可能性が示唆された。これらの知見は、地域特性に応じた蜂の管理戦略や教育の優先地域を決定するうえで有用であり、都市計画における生態系ディスサービスの考慮にも資する。
本研究は、従来の生態学的調査では捉えきれなかった人間と蜂の軋轢を社会生態学的観点から数値化したものであり、今後は住民アンケートと巣密度調査を組み合わせたさらなる分析が予定されている。