千葉大、「光害」が昆虫の体内時計と寿命に与える影響を解明
発表日:2025.08.27
千葉大学大学院理学研究院・高橋佑磨准教授らの研究グループは、都市部と非都市部に生息するオウトウショウジョウバエ(Drosophila suzukii)を用いた共通圃場実験により、都市特有の夜間人工光(光害)が昆虫の生理・行動に与える影響を明らかにした。都市部の個体群では、光害による体サイズの縮小、睡眠時間の減少、活動リズムの乱れ、寿命の短縮といった影響が軽減されており、都市環境への適応進化が示唆された。
本研究では、関東地方の都市・非都市部由来の複数系統を用い、夜間に薄明かり(10ルクス)が続く「明夜条件」と完全な暗闇となる「暗夜条件」で飼育し、体サイズ、寿命、睡眠、概日リズム、遺伝子発現パターンを比較した。その結果、非都市系統では明夜条件下で生存率が低下し、体の縮小や睡眠サイクルの乱れが顕著であった。一方、都市系統ではこれらの影響が緩和され、特にメス個体において活動リズムの安定性が高かった。さらに、トランスクリプトーム解析により、光受容や体内時計に関連する遺伝子群の応答が都市・非都市系統で異なることが判明した。――都市系統では、夜間光による撹乱を緩和する遺伝子制御が発達しており、都市環境への適応進化の一端を示す結果となった。
本研究は、光害という現代的な環境ストレスが生物の生理・行動に悪影響を及ぼすことを実証するとともに、急速な進化を促す可能性を示した。都市化が生物多様性に与える影響の評価や、持続可能な都市環境設計に資する科学的知見のひとつだ。
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