温暖化と海洋酸性化が北極海の栄養構造を変える!JAMSTECら、プランクトン群集の応答性に着目
発表日:2025.08.20
海洋研究開発機構(JAMSTEC)とUniversity of Strathclydeの研究グループは、北極海における温暖化と海洋酸性化が植物プランクトン群集の構造に与える影響を現場実験により解明した。本成果は、文部科学省の北極域研究加速プロジェクト(ArCS II)および科学研究費助成事業の支援を受けて実施され、国際学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
同研究グループは、2017年と2018年に海洋地球研究船「みらい」および北海道大学練習船「おしょろ丸」によって採取されたプランクトン群集を用い、水温と二酸化炭素濃度を操作した培養実験を実施した。その結果、昇温によって植物プランクトンの増殖速度が加速し、従来理論と比較して大型群集で平均8.8倍、小型群集で平均4.7倍の高感度を示した。一方、微小動物プランクトンの摂餌速度は植物プランクトンの増殖速度に依存し、環境変化に対して直接的な影響を受けないことが判明した。さらに、海洋酸性化によるCO2濃度上昇は、大型植物プランクトンの増殖を抑制し、小型植物プランクトンの増殖を促進する傾向が確認された。この新知見は、北極海において温暖化と海洋酸性化が同時に進行すると、小型植物プランクトンが優占し、高次栄養段階生物の生産効率が低下する可能性を示唆するものである。生態系ピラミッドにおいて、小型植物プランクトンを起点とする食物連鎖はエネルギー伝達効率が低く、一次生産の多くが失われるため、生態系全体の生産性が低下する構造となると考えられた。――機能の異なる生物群に対する環境影響を分離して評価可能な新たな実験系を構築したことで、複雑な海洋生態系の変化メカニズムを理論的に解釈するための枠組みが整備された。本成果は、海域別の環境影響評価や生態系モデルの高度化に資する知見として評価されている。