大気海洋研、船底汲上水中の環境DNAで表層魚類群集を高精度検出
発表日:2025.09.16
東京大学大気海洋研究所の伊藤進一教授らの研究グループは、西部北太平洋における9回の「共同利用学術研究船航海事業」を通じて、船底汲上水・バケツ採水・ニスキン採水器の3手法を用いて魚類の環境DNAを採集し、それぞれの手法による魚類群集構造と多様性の比較を行った(掲載誌:Journal of Oceanography)。
環境DNAなどの試料を得るために採水する際は船舶を停止させる必要があったが、近年では船底汲上水を利用することで、航行中でも採水することが可能となり、協力船による高頻度・高解像度の海洋モニタリングへの応用展開が期待されている。――本研究では、83地点において 3種類の採水法を比較し、合計 464 分類群を検出している。また、群集構成に基づくクラスター解析では、8つの特徴的な群集を分類でき、同一地点での既存の検出結果と概ね一致した。ただし、バケツ採水では一部地点で多様性が過大評価される傾向があることも確認された。さらに、非尺度型多次元構成法(NMDS)による解析では、群集構成が水温・塩分・クロロフィル a などの環境要因や季節に依存して変化することが示された。船底汲上水による採水は、他の手法と同等の群集構成を検出可能であり、連続観測に適していることが実証された。
研究者は、船底汲上水による環境DNAモニタリングが、地球規模での表層魚類多様性の時空間的観測を可能にし、気候変動への応答特性の解明や持続的な漁業資源管理に貢献すると期待している。なお、本研究は、東京大学大気海洋研究所による共同利用研究船事業の一環として実施された。