福工大、ダム堆砂によるアサリの成長促進効果を実証
発表日:2025.09.26
福岡工業大学社会環境学科の田井研究室は、熊本県の緑川ダムの堆砂を有明海の干潟に覆砂することでアサリの成長促進を実証した(受賞歴:令和7年度河川基金研究成果発表会・環境大臣賞)。本研究は、全国的に深刻化するダム堆砂問題に対し、資源循環と生態系再生の両面から新たな活用法を提示するものである。
ダム上流から流入した土砂の多くはダム底に堆積し、貯水容量の減少や取水障害、氾濫防止機能の低下などを引き起こす。国土交通省の調査によれば、全国575ダムのうち68ダム(約12%)で計画堆砂量を超過しており、特に緑川ダム(熊本県下益城郡美里町、一級水系緑川水系、主ダム:重力式コンクリート・脇ダム:ロックフィル式)では堆砂率が93.6%に達している(令和5年度末時点)。
田井研究室は、ダム堆砂を活用して干潟の水産資源を復活させる研究に取り組んでおり、放流や処分地への運搬を主流とする現在の堆砂処理は環境負荷やコスト面で課題が多いと見ていた。――緑川ダムの堆砂を緑川干潟に運搬・散布し、アサリの生息砂床として活用する実証試験を行った結果、堆砂土は粒子径が大きく潮流に流されにくく、礫の存在が稚貝の定着や呼吸管の伸長を助けるなど、生育環境として適していることが確認された。また、覆砂後4カ月以降にアサリの個体数が増加し、殻長の伸長は対照区の約2倍に達する地点も見られ、覆砂領域は半年後も安定して残存しており、堆砂の干潟定着性も示された。
今回の実証試験は、川口漁業協同組合・緑川漁業協同組合との協議、熊本県環境立県推進課の協力のもと、地域漁業活動への影響を考慮して実施された。研究者は、「養殖ノリのシーズンを避けるなど、現地関係者の理解を得た上での大規模実証は国内でも希少であり、世界的にも初の試み」と訴求している。今後は、アサリの成長促進メカニズムや個体数増加への影響を詳細に分析し、成長プロセスの類型化を通じて、有明海の水産資源復活に資する知見の獲得を目指すという。なお、10月5日に現地で、緑川干潟での調査活動を公開する企画も進められている。
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