上智大、AIで構築した多因子予測モデルでクマ出没リスクを解析
発表日:2025.09.30
上智大学大学院応用データサイエンス学位プログラムの中許眞氏と深澤佑介准教授は、秋田県におけるクマの出没リスクを高精度に予測するAIモデルを開発した(掲載誌:International Journal of Data Science and Analytics)。
近年、ブナの実の凶作や中山間地域の過疎化・高齢化などの影響により、クマの市街地出没が急増している。特に2023年の秋田県では、年間出没件数が平均800件から3,900件以上に急増しており、人身事故のリスクが高まっている。こうした背景を踏まえ、本研究では、出没リスクを事前に把握し、警戒情報や対応策の効率的な配信を可能にする予測モデルの構築を目指した。
本研究では、過去の出没記録に加え、土地被覆、人口分布、気象、標高、道路の有無、ブナの実の豊凶など多様な要因を統合し、1kmメッシュ単位で日別の出没予測を行った。開発モデルは、Extra Treesアルゴリズムを用いて訓練され、正答率63.7%、適合率63.5%、再現率63.6%と高い予測精度を達成した。――XAI技術の一つであるSHAP解析により、過去の出没状況、土地被覆(人口構造物、水田、竹林など)、高齢者人口、標高が主要な予測因子であることが明らかになった。また、未知の地域に対する予測性能を検証するため、Leave-One-Location-Out評価を実施した結果、Accuracy 0.601、Precision 0.568、Recall 0.563と安定した予測精度を示した。これにより、地域一般化能力の高さも確認された。
研究者は、「リアルタイムの天気情報や最新の出没情報を取り入れたモデルの更新を進めるとともに、他地域への展開を図る」と述べており、全国的なクマ出没対策への貢献が期待される。――AIと環境・社会データの融合による実践的なリスク予測の一例として注目される。