ライトレール(LRT)

ライトレール(LRT:Light Rail Transit)とは、快適で省エネ性に優れた、新しい路面電車交通のことをいう。従来から欧米では、路面電車のことを「トラム」、「ストリートカー」と呼んでいたが、環境にも配慮した新しい交通システムとしての路面電車に対して、「ライトレール」という名称が使われるようになった。なお、フランスでは今も「Tram」、日本では「新型路面電車」や「次世代型路面電車」という名称が使われることもある。

自動車に依存する交通システムが、エネルギー効率や環境、安全などの面で問題を抱えているのに対し、公共交通機関であるライトレールは、エネルギー効率が良く、自動車交通量の削減にもつながるとして注目されている。ライトレールの導入にあたっては、「人が移動しやすいまちづくり」の視点で公共交通システムのあるべき姿を考え、自家用車、バス、自転車などの他の移動手段との連携による、移動のネットワーク化を図ることが重要である。

※掲載内容は2021年7月時点の情報に基づいております。
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1.ライトレール(LRT)の概要

1)ライトレール(LRT)とは?

日本では、東京オリンピックが開催された1964年以降、高速道路の建設が進み、高度経済成長に伴って多くの人がマイカーを持つようになった。そのため、それまで市民の足として親しまれた路面電車は邪魔者になり次々に廃線に追い込まれた(図1)。

図1 わが国における路面軌道の推移
出典:国土交通省道路局「LRTの導入支援(次世代型路面電車システム)」

しかしながら、慢性的な車の渋滞、騒音、事故多発、大気汚染、駐車場の不足などの問題に対する反省から、世界の流れは変わり、一旦は路面電車を廃止した街でも、公共交通機関としてハイテク化された新しい路面電車交通「ライトレール(LRT)」を、まちづくりと合わせて復活させる事例がみられるようになってきた。

欧州では、ドイツのようにアウトバーンの整備が進みモータリゼーションが1930年代から始まっていた国においても、ライトレールの建設が進んでおり、フランス、オーストラリア、北欧でも導入が進んでいる(図2)。

図2 世界各国のLRT
出典:国立環境研究所 公開シンポジウム2007講演(松橋 啓介)

ライトレールでは、快適性、安全性、省エネ性に優れた流麗なデザインの低床式車両LRV(Light Rail Vehicle)が使われる。最近は、台車に車軸のない独立車輪方式を採用した床高30cm程度の100%低床型LRVが開発され、車内の床がフルフラットで、乗降の際もホームとの段差がなく、車椅子や乳母車の乗降が容易なバリアフリーの車両構造となっている。ライトレールは、市街地走行の速度向上のために高度な運行管理が行われ、短い待ち時間、安い運賃など、自動車に勝る便利で快適な交通システムの条件を備えている。

地下鉄・都市モノレール・新交通システムは、延長1km あたり数十~数百億円と投資規模が大きく、需要規模が小さい地方都市では導入実現が困難と考えられるが、ライトレールの導入費はそれに比べて延長1kmあたり数十億円と安い。停車場間隔も地下鉄の1~2kmに比べて0.5~0.7kmと短く、窓の外を観ながら自分の気に入った停車場で降車することもできる。また、ライトレールはトランジットモール(一般車両の通行を制限して、歩行者とライトレール、バスなどの公共交通機関のみが利用できるように作られた街路)などの歩行者空間との相性も良い。このように、ライトレールは、快適性、安全性、省エネ性、経済性、市街地の活性化に優れた新しい公共交通システムといえる。


2)ライトレールによる環境負荷の削減

ライトレールは、環境負荷の削減、交通の円滑化、移動のバリアフリー化、公共交通ネットワークの充実、魅力ある都市と地域の再生など多くのメリットをもつ。特に環境の観点から重要なのは、自動車排ガスや自動車騒音などの地域的な環境負荷の削減、及び運輸部門における二酸化炭素排出量の削減である。

こうしたことから、国土交通省ではLRTの導入支援を進めており、2005年度から「LRT総合整備事業」を開始し、関係部局によりLRTの一体的・総合的な支援を行っている。環境省では、国土交通省環境行動計画モデル事業において公募・選定されたEST(環境的に持続可能な交通)の実現を目指す先導的な地域に対して、関係省庁と連携した支援を行っており、その中で富山市のライトレールが対象となっている。

国立環境研究所では、ライトレールによる環境負荷の削減効果について研究している。それによれば、ライトレールが乗客一人を1キロメートル運ぶのに排出する二酸化炭素は、自家用車の場合の約半分(51%)と推計されている。これは、走行時の排出量のみならず、車両の製造・維持管理、レールや道路の建設・維持管理による排出量を含めた結果である。同様に、窒素酸化物については約3分の1(32%と)に低減されるという結果が得られている。


2.ライトレール(LRT)の導入事例

1)ストラスブールのTram

ストラスブールは、ドイツとの国境に近い、アルザス地方にある人口25万人(都市圏45万人)のフランスの中核都市で、欧州議会もおかれている運河に囲まれた美しい街である。

この街では、1962年に路面電車が廃止された後、自動車の渋滞による大気環境の悪化が問題となっていた。そのため、1989年の市長選挙では都市交通の改善が争点となり、新しい路面電車(Tram)派と地下型の全自動中軌道新交通システム(VAL)建設派の候補の一騎打ちとなった。そして、新しい路面電車(Tram)派の女性市長が当選し、都市部におけるトランジットモール化と新しい路面電車網の建設を推進。5年後の1994年には、図3のような流線型の新型路面電車が街を走り始めた。現在、路線はA~Eの5系統で全長54km、53編成を有し、1日に約20万人が利用している。

図3 ストラスブール(フランス)のTramとバスの乗り換え駅

Tramは、1編成の乗車定員が285~370人と、日本の路面電車の乗車定員70~80人に比べて4倍近い。「ユーロトラム」の愛称で呼ばれ、床面フルフラットの100%低床型で、窓も可能な限り大きく取ってある。車両は当初、スイスのABB社で開発されイギリスで製造されていたが、2006年からはデザインを踏襲しつつ、フランス国産のアルストム社製(愛称「シタディス」)となった。

Tramは都市計画の中で交通の基幹軸として位置づけられ、フィーダーバス(幹線であるTramを補完するために設けられたバス系統)への乗換用に駅が整備されているほか、郊外では自家用車を駐車場に止めてTramに乗換えるパーク・アンド・ライド(P&R)も導入されている。パーク・アンド・ライド(P&R)では、一日の駐車料金とトラムの乗車賃(最大7名)で合計4.2ユーロ(約550円)と割安に設定されている。乗車券は1回1.7ユーロ(約220円)からで、専用アプリの使用や、プラットホームの販売機で事前に購入して乗車する「信用乗車方式」によるため、乗車定員が多いわりには乗り降りに時間がかからない。

Tramの運行頻度は、朝6時半から夜8時までの時間帯は5~6分間隔、その他の時間帯も15分以内の間隔である。Tramの進行に合わせて交差点での信号が自動的にかわる「優先信号方式」により、信号待ちのないスムーズな運行ができるようになっている。Tramの導入に併せて都心部の自動車規制を行い、安全・安心で歩きたくなるまちづくりを進めた結果、Tramの沿線を中心に地価が上昇し、高級ブランド店やチェーン店が次々に進出して商店街は活況を呈している。


2)富山市での取り組み

政府は、2008年度から温室効果ガスの排出削減などで先駆的な取り組みを行う自治体を「環境モデル都市」に指定することとしている。2008年7月には第1回目の環境モデル都市(全国6自治体)が発表され、その1つに富山市が選定された。

富山市は、鉄道やバスなどの公共交通を軸として、その沿線の徒歩圏(日常生活に必要な機能が集積したエリア)が結ばれた「コンパクトなまちづくり」を目指している。そのリーディングプロジェクトとして、市では2003年にLRTプロジェクト(富山港線路面電車化事業)を開始した。2004年には運行にあたる新たな事業者、第3セクター「富山ライトレール(株)」を設立し、本格着工から約14ヶ月間という短期間に路面電車化工事を完成させ、2006年4月にモダンなデザインの全低床式LRV愛称「ポートラム(図4)」の運行を開始した(同社は2020年、富山地方鉄道(株)に吸収合併)。

図4 低床式LRV 「ポートラム」
写真提供:富山ライトレール(株)(現・富山地方鉄道(株))

LRVの設計はボンバルディア社(カナダ)、製造は新潟トランシス(株)で、1編成の乗車定員は80人、7色のアクセントカラーのLRV が7編成導入されている。路線は富山駅と、富山湾の北前船で栄えた岩瀬浜をつなぐ全長7.6kmで、当初の13駅に、2021年3月に新たに設置した2駅を加えた15の駅がある。終点の岩瀬浜と、途中の蓮町の2ヶ所ではLRTに接続するフィーダーバスとの結節点をもつ。運賃は210円均一で、中乗り・前降りとして、降車時に運賃授受する形態としている。なお、平日の朝ラッシュ時はICカード利用者に限って前後どちらからでも乗降できる信用降車を実施している。運行間隔は、平日朝ラッシュ時は10分間隔、昼間から夜19時台までは15分間隔、深夜は30分間隔となる。

2006年4月29日の開業以来、利用者数は事業者の予想を上回るかたちで伸び、2006年11月9日には、当初目標よりも3ヶ月早く、乗車100万人を達成。開業した2006年度は1日平均4900人が利用し、決算は黒字となった。2019年度の1日あたりの利用者数は、平日4,669人、休日3,216人であり、2006年4月の開業以降、利用者は平日で約2倍、休日で約3倍に増加し、この内、約12%は自動車からの転換である。また、高齢者のLRT利用が大幅に増加しており、これまでは出歩かなかった高齢者等が利用者の2割を占めていた。このことから、移動制約者のモビリティ確保に寄与しているといえる。

図5 1日あたりの利用者の推移(上)と利用者の以前の移動手段 (下)
出典:富山市都市整備事業の概要


3)宇都宮市の取り組み

宇都宮市は、各拠点・集落を繋いで相互に連携する「ネットワーク型コンパクトシティ(NCC)」構想を掲げ、まちづくりを進めている。2015年には第3セクターにより「宇都宮ライトレール(株)」を設立し、2023年の開業を目指し準備を進めている。新規にLRTが建設されるのは日本初の事例となる。

路線(優先整備区間)は、JR宇都宮駅東口(宇都宮市)から本田技研北門(芳賀町)までの14.6キロメートルで、19カ所の停留所が設けられる。ピーク時は6分間隔、オフピーク時は10分間隔の運行を予定しており、平日1日あたり約16,300人の需要を見込む。 主要とする乗り場(5か所)には、トランジットセンター(乗り換え施設)を設け、バスや地域内交通・自転車等との交通手段をつなぐ(図6)。

図6 宇都宮ライトレールトランジットセンター(イメージパース)
出典:芳賀・宇都宮LRT公式ホームページ

また、宇都宮市では地域新電力を立ち上げ、市の廃棄物発電による電力をライトレールに供給する計画である。ライトレールの電源を100%再生可能エネルギーでまかない、「ゼロ・カーボン・トランスポート」の実現を目指している。


ライトレールを中心とした公共交通の活性化の推進、中心市街地や公共交通沿線への機能集積の推進という2つの取組により、2030年における運輸部門の二酸化炭素排出量が2010年と比べて33%減少すると試算されている。

現在、多くの地方都市では、低密度に広がった市街地と自動車への依存という問題を抱えており、車を使えない人にとって生活しづらい都市になっている。また、中心市街地の空洞化により、都市全体の活力低下と魅力の喪失も問題となっている。LRTはこうした問題を解決する上でも重要で、都市の活性化につながると期待される。


引用・参考資料など

・環境省「地域の多様な課題に応える低炭素な都市・地域づくりモデル形成事業(資料)」

・環境省「環境的に持続可能な交通(EST)の実現に向けたモデル事業」

・国土交通省道路局「LRTの導入支援」

・国立環境研究所 公開シンポジウム2007講演「脱温暖化社会に向けた交通とまちづくり-2050年の持続可能な交通の姿を今から考えましょう-」(松橋 啓介)発表スライド

国立環境研究所ニュース17巻1号(1998年4月)「路面電車の環境負荷」(松橋啓介)

・望月眞一 著「路面電車が街をつくる」 鹿島出版会 (2001年)

・宇都宮浄人 著「路面電車ルネッサンス」 新潮新書 (2003年)

・吉川文夫 著「路面電車の技術と進歩」グランプリ出版 (2003年)

・服部重敬 編著「路面電車新時代-LRTへの軌跡」 山海堂 (2006年)

鉄道技術Webサイト

・富山ライトレール記録誌編集委員会編集「富山ライトレールの誕生」 鹿島出版会 (2007年)

・富山市「環境モデル都市」

富山市都市整備事業の概要(2020年)

富山地方鉄道(株)ホームページ

芳賀・宇都宮LRT公式ホームページ


<コンテンツ改訂について>
2009年6月:初版を掲載
2021年7月:改訂版に更新