環境技術解説

浸出水処理システム

最終処分場に埋め立てられる焼却灰や不用品は、程度の差こそあれ、有害な成分を含んでいる。埋立地に降った雨が自然流下し、埋立地に浸透する過程において「有害成分が溶出した水(浸出水)」が発生する可能性がある。

浸出水に含まれている有害物質は多種多様で、時代とともに監視対象となる物質や環境基準も変化してきた。重金属やダイオキシンをはじめ、近年では放射性セシウムを含む廃棄物が埋め立てられることもあり、処理技術の高度化が図られてきた。一方、世界に目を向けると、廃棄物処理・管理の仕組みが整っていない国々も見受けられる。

この記事では、浸出水処理の技術を「浸出水処理システム」と総称し、基本的な流れや処理プロセスの概要、ダイオキシン類などに特化した高度処理の実際、さらには東南アジアにおける技術移転の事例等について解説する。

図1 最終処分場における浸出水処理施設
出典:環境省「管理型処分場における埋立処分事業について(平成25年3月4日)」
浸出水は下層の地下水を汚染する可能性があるため、最終処分場には浸出水による環境汚染を防ぎ、安全なレベルにまで浄化・放流する施設が設置されている。


※掲載内容は2023年3月時点の情報に基づいております。
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1.背景

最終処分場は、受け入れる(埋め立てる)廃棄物の種類などにより3つのタイプに区分されている。

  • 有害な産業廃棄物を受け入れる「遮断型最終処分場」
  • 比較的性質が安定している産業廃棄物を埋め立てる「安定型処分場」
  • それらの処分場で受け入れていない産業廃棄物と一般廃棄物を埋め立てる「管理型処分場」

タイプごとに環境に与える影響の度合いは異なる。遮断型最終処分場はコンクリート製の仕切りで地下水や公共水域と遮断されており、最も頑強な構造を持つ。

他方、安定型処分場と管理型処分場は、浸出水の浸透や流出の可能性がゼロではない。管理型処分場と安定型処分場の埋立地には「遮水工」を施す必要がある(コラム参照)。

遮水工には、透水係数が小さく、ひび割れの生じにくい柔らかい材料が導入される。粘土や合成樹脂製の遮水シートが広く用いられているが、それらの経年的な劣化は避けられない。また、浸出水の性質は、埋立許可を受けた面積・容量、埋め立てられている廃棄物の種類、埋立後の経過年数、気象条件などによって異なる。

すなわち、遮水工を基軸としつつも、浸出水の漏出量や成分、それらの変動を考慮した浄化処理プロセスを設計する必要があり、最終処分場の長期的な運用を見据えた包括的・持続的な運用が求められる。


コラム◆浸出水処理システムの配置・構成

管理型最終処分場の埋立地内には、さまざまな集排水施設が設置されている。地下水位の制御を目的とする集排水管のほか、雨水の迅速な排除や、対象廃棄物(産業廃棄物の汚泥や燃えがら・シュレッダーダスト、分別回収されていない家庭ごみなど)と雨水との隔離などを目的とする集排水管が敷設されている。

遮水工の上部に敷設された集排水管は、浸出水の地下への浸透を抑制するとともに、浸出水を集め、浸出液調整槽に誘導する役割を果たしている。浸出水処理システムは、埋立地の境界に築かれた擁壁の外に配置されており、処理原水や地下水のモニタリング施設群と一体的に運用されていることが多い。


図2 管理型最終処分場のイメージ


比較的最近に埋め立てられた廃棄物の層は通気性が高い。浸出水の集排水は、浸出水処理システムの上流工程であると同時に、不飽和かつ好気性の埋立構造確保に役立っている。今日的には、嫌気性発酵で生ずるメタンガス(CO2の21倍の等価である温室効果ガス)の排出削減の観点から、水捌けの良い埋立地のあり方が推奨されている。



2.浸出水処理の概要

図3は、管理型最終処分場等における浸出水処理の基本的な流れを示す。

埋立地に溜まった浸出水は、飽和・溢流する前にポンプで汲み上げられ、調整池(槽)に一時貯留され、前処理、生物処理、凝集沈殿処理等を経て、安全かつ放流可能なレベルまで浄化処理される。

図3 一般的な浸出水処理フロー
環境省大臣官房 廃棄物・リサイクル対策部廃棄物対策課「廃棄物処理施設の発注仕様書作成の手引き」をもとに作成


前述のとおり、浸出水処理システムは最終処分場・埋立地の特性に応じて設計されている。特定の成分に対する処理が必要な場合は、しばしば高度処理が導入される。

以下、各工程の詳細について解説する。


1)前処理

浸出水を最初に受ける工程であり、夾雑物や土砂などの除去を目的としている。

カルシウム塩類の濃度が高い場合、次工程に支障をきたし、放流先である河川の環境や農業水利等に悪影響をおよぼす可能性がある場合は、この段階で溶解塩類を蒸留除去も行う。


2)生物処理

有機汚濁のうち、微生物によって比較的容易に分解できるものは、活性汚泥法・回転円盤法・接触ばっ気法などを適用し、除去する。分解しにくく、水に溶けている有機物(難分解性溶存有機物)については、生物処理の前後に紫外線やオゾン処理等を組み込んだプロセスで対処している。


3)凝集沈殿処理

浸出水中の浮遊物質や難分解性溶存有機物・重金属の凝集沈殿を目的としている。

凝集剤を添加して浮遊物質等を凝集させ、重たい塊(フロック)を作り、沈殿速度を大きくして、沈降させて固液分離する。主な処理法としては、水酸化法、硫化ソーダ法、フェライト法およびキレート樹脂法などが挙げられる。

浸出水処理に採用されている生物処理・凝集沈殿処理は、下水処理の手法を応用したものが多い。詳細は以下の記事を参考にされたい(環境技術解説「下水道」)。




4)高度処理

前処理・生物処理・凝集沈殿処理までの工程を経ても尚、処理されず、残存している難分解性溶存有機物(フミン質など)や重金属の除去を目的としている。

埋め立てられた廃棄物や浸出水の性状により、ダイオキシン類に特化した対策なども行われている。


5)後処理など

河川等に放流する前の最終的な処理や、中水のリサイクル利用に向けた処理を指す。 凝集沈殿処理した後の水、あるいは高度処理した後の水に対し、塩素滅菌などが行われている。

1)~4)のプロセス機器装置・設備では、相当量の固形分(含水)が分離される。発生した汚泥の脱水(ケーキ化)、安定化処理が行われている。


3. 浸出水の高度処理

浸出水によるダイオキシン類流出対策として、「ごみ処理に係るダイオキシン類発生防止等ガイドライン」(平成9年)では、「浸出水処理設備により浮遊物質除去を徹底(当面、処理水のSS濃度10mg/l以下)」することが定められている。これによって放流水中の水質排出基準である10pg-TEQ/lは達成できると考えられている。しかし、最終処分場周辺の住民へ安心感を与えるために、高度な技術が求められている。


1)促進酸化処理法

オゾンや過酸化水素、紫外線などを併用することによって、強力な酸化剤であるOHラジカルを発生させ、水中の汚濁物を酸化分解、除去する方法である(図4)。選択性が低いため、特にダイオキシン類や農薬などの、水中で微量に含まれている有機物質の分解除去に優れた効果を発揮する。また、オゾンや紫外線、過酸化水素を使用するため、分解後は酸素や水になり、二次廃棄物が発生しない点でも優れている。

処理手段の組み合わせによってフローは異なるが、いずれの場合も原水の前処理が必須である。オゾンや過酸化水素、OHラジカルは反応性が高いため、他の除去方法でも容易に処理できるような物質に対しても消費されてしまい、運転費用がかさんでしまうからである。

紫外線照射を併用する場合も、紫外線の照射距離には限りがあるので前処理によって原水の透過性を高めておく必要がある。


図4 促進酸化処理法(オゾン/過酸化水素法)フロー図


2)脱塩処理システム

MF膜(Microfiltlation:精密ろ過膜)+RO膜(Reverse Osmosis:逆浸透膜)により、浸出水中の塩分を除去し、水道水レベルの水質を実現できる処理方法である。また、塩類だけでなく、窒素、COD、重金属類、ダイオキシン類の分離も可能である。

図5は、脱塩処理システムのフロー図である。MF膜にて0.1μm~1μmの範囲の粒子や高分子を分離した後、RO膜で重金属類等を分離する。処理水はプラント用水として再利用できる。また、RO膜で除外された重金属等を多く含む濃縮水は、含水率10%以下の乾燥塩に精製できる。


図5 電気透析法による脱塩処理を取り入れたプロセス
出典:住友重機械エンバイロメント(株)最終処分場浸出水処理施設


促進酸化法同様、このシステムも、原水を前処理しておくことで、膜の寿命を長くすることができ、効率の良い運転が可能となる。

水処理膜を使用した処理方法については以下の記事を参考にされたい(環境技術解説「水処理膜」)。




4.技術を取り巻く動向

1)最終処分場における放射性セシウム対策

東京電力福島第一原子力発電所の事故により大気中に放出された放射性物質による環境の汚染が生じた。これによる人の健康又は生活環境に及ぼす影響を速やかに低減するため、平成23年に「放射性物質汚染対処特措法(平成二十三年八月三十日法律第百十号)」が公布された。焼却施設で捕集された放射性セシウムを含むばいじんは、最終処分場で処分される。埋め立て時には、焼却灰に含まれる放射性セシウムが外部に流出しないような措置が講じられ、放流水についても徹底した管理が行われる(図6)。

浸出水は、外に漏れださないように遮水工等により外部と区切られており、また、一連の処理をした上で放流される。さらに、放流水中の放射性セシウム濃度の測定(月1回以上)及び基準の遵守が義務づけられている。



2)新興国における浸出水処理

先進国(北米、日本、EU諸国など)のごみ収集率は100%、あるいは100%近い水準となっている。他方、開発途上国のごみ収集率は総じて低く、ごみ収集率が40%に満たない国も存在する。ごみ収集が徹底されていない国々では、多くのごみが街中に投棄されたり、海や河川などに流されたりしている。

また、南アジアやサブサハラ・アフリカでは、“ごみ山”の原因となるオープンダンプ(ごみ処分場に運んできたごみの開放投棄)が相当の割合で行われている(図7)。埋立処分の詳細が不明な国・地域も多く、環境保全対策などの基準を設けることなく、不適切な廃棄物管理を行っている事例が数多く報告されている。

東アジア・太平洋地域の小規模島嶼国や都市化が急速に進んでいる新興国では、ごみやごみに含まれている有害成分が大きな環境・社会問題となっている。とりわけ、「浸出水」の不適切な処理は一国のみの問題ではなく、海洋汚染などの地球規模の環境問題につながる可能性を持っている。日本で培われた埋立地の管理や環境に配慮した技術の移転が急務となっている。


図7 地域別・廃棄物処理方法の割合
出典:What a Waste 2.0: A Global Snapshot on Solid Waste Management to 2050(Kaza,S. et al., 2018)をもとに作成


一方、経済発展が進んでいるとはいえ、現在の東南アジアの都市域で埋立地浸出水を処理するために多大なコスト、エネルギーを使用することは極めて困難にある。

国立環境研究所は、生態系の力を活用することで、電気エネルギーをほとんど使用しない人工湿地による排水処理技術に着目して研究を進めている。ヨシ、ガマ、マコモなどの植物のもつ物理的な吸着・濾過および生物的な浄化作用を、浸出水処理へ適応させることができる(図8)。


図8 タイ国で実施中の人工湿地モデル試験
出典:国立環境研究所資源循環領域オンラインマガジン環環「東南アジアの埋立地浸出水処理への人工湿地技術の適用」


また、ウキクサを植栽することによって、フェノールやアニリン、ノニルフェノールなどの芳香族化合物の除去が促進されることや、ウキクサの根からその分解菌が有用微生物として分離される等、ウキクサの魅力的な水質浄化機能が明らかにされつつある。

これら技術により東南アジアなどへ円滑に浸出水処理が導入されていくことが期待される。


引用・参考資料など