調査項目について

調査対象は、海水・海底の堆積物・海の生物に含まれる有害化学物質及び生物種の組成、漂流ゴミの数量などである。各調査及び調査年ごとの測定項目の詳細については、調査年別測定項目一覧表(水質・底質・生体濃度) [PDF69KB] に示すとおりである。なお、いずれの調査対象についても経年的な変化の把握を目指している。

各調査で測定されている項目のうち、環境GISでは、下記の測定項目を表示している。

水質・底質・生体濃度調査の共通測定項目

海洋環境モニタリングマップLight版」および「環境GIS+」にて閲覧可能な項目である。

重金属類

項目単位略号説明
カドミウム 水質はμg/L、
底質はμg/g(dry)、
生体濃度はμg/g(wet)
Cd 自然界にごく微量であるが亜鉛と共存する形で広く分布しており、地表水、地下水にもごく微量含まれていると言われる。充電式電池、塗料、メッキ工業など用途が広いが、生体への蓄積性があり、慢性中毒を引き起こす。富山県神通川流域で発生したイタイイタイ病の原因物質とされる。
Pb 古くから人類に利用されてきた金属の1つで、現在でもそのさびにくさ、加工しやすさから、鉛蓄電池、鉛管、ガソリン添加剤など用途が広い。カドミウムや鉛などの重金属はもともと人体にないものなので、体内に入っても代謝できず蓄積されると、発がん、貧血、中枢神経や末梢神経への影響などの有害な症状を起こす。
Cu 電線、合金、鋳物、農薬、医薬品などの原料として広く用いられ、汚染源は、鉱山、製錬所などである。銅は、自然界にも広く分布しており、生体必須元素の1つであるが、大量に摂取すると慢性中毒を起こす。また植物にとっても必須元素であるため、土壌中の含有量が低いと欠乏症を起こすことがある一方、過剰であると酸性土壌では根の生育不良や養水分の吸収阻害を起こす。群馬県足尾銅山の排水による渡良瀬川流域の水稲被害は有名である。
全水銀 T-Hg 無機水銀と有機水銀の総量。水銀は銀白色で常温では唯一の液体金属。有機水銀は無機水銀に比べ毒性が強く、特にメチル水銀化合物の毒性は強い。メチル水銀などの毒性は、主として神経系を損傷する。熊本県水俣で、工場から排出されたメチル水銀が魚介類に蓄積され、それを食べた人の体内に取り込まれ、その結果水俣病が発生した。

有機塩素化合物

項目単位略号説明
ポリ塩化ビフェニール 水質はμg/L、
底質はμg/g(dry)、
生体濃度はng/g(wet)
PCB 粘性のある油状物質で、自然界には存在しない物質。生体へ蓄積し、慢性中毒を引き起こす。その毒性、蓄積性が問題となり使用中止になったが、回収・処理が非常に難しく、環境中から高濃度で検出されることがあり、非常に関心の高い汚染物質の一つ。かつては、熱安定性、電気絶縁性に優れ、トランス、コンデンサー、熱媒体、ノーカーボン複写紙などに用いられた。カネミ油症事件の原因物質とされる。なお、環境GISで表示している濃度は、2014年度まではガスクロマトグラフ電子捕獲検出器を用いた方法(GC-ECD 法)によるもので、2015年度以降はガスクロマトグラフ高分解能質量分析計を用いた方法(GC-HRMS 法)によるものである。

ダイオキシン類

項目単位略号説明
ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン 水質はpg/L、
底質はng/g(dry)、
生体濃度はng/g(wet)
PCDD 一般に、PCDD と PCDF をまとめてダイオキシン類と呼ぶ。この物質はそのものを目的に製造されたのではなく、他の物質の不純物として、また化学製品を燃焼することにより発生する。ダイオキシン類は、ベトナム戦争で枯葉作戦に使用された除草剤に不純物として含まれていたため、人や生態系に深刻な被害を及ぼしたことが知られている。また、残留性、蓄積性が高く、肝臓や皮膚に障害を引き起こし、強い催奇形性や発がん性をもつことが確認されている。塩化フェノール類を原料とする農薬に含まれるほか、塩素を含む有機物の不完全燃焼等によって生成し、ごみ焼却炉の灰や自動車排ガス、漂白用に塩素を使用する製紙工場の排ガス等に含まれると言われている。
ポリ塩化ジベンゾフラン PCDF
コプラナPCB - 極めて毒性が強く、その生体作用はダイオキシン類と類似するため、ダイオキシン類似化合物と呼ぶ。PCB 製品に由来するものに加え、燃焼起源のものがある。
ダイオキシン類総量 水質はpg-TEQ/L、
底質はpg-TEQ/g(dry)、
生体濃度はpg-TEQ/g(wet)
- ダイオキシン類は、PCDD、PCDF、Co-PCB の総称である(ダイオキシン類対策特別措置法による定義)。ダイオキシン類は、置換塩素の数や位置によって、PCDD は75種類、PCDF は135種類、Co-PCB は12種類の異性体があり、その毒性が異性体により大きく異なるため、各異性体の量にそれぞれの毒性等価係数 (TEF) を掛けて足し合わせた値 (毒性等量 (TEQ)) が通常用いられる。詳細は、ダイオキシン類の毒性等量換算を参照。また、POPs 条約の対象物質であり、ダイオキシン類対策特別措置法により、基準値策定や排出規制が行われている。

以下は「環境GIS+」にて閲覧可能な項目である。

水質調査の測定項目

一般項目

項目単位略号説明
pH - - 水溶液の酸性、アルカリ性の度合いを表す指標。pH が7のときに中性、7を超えるとアルカリ性、7未満では酸性を示す。
溶存酸素量 mL/L DO 水中に溶けている酸素の量のこと。酸素の溶解度は水温、塩分、気圧等に影響され、水温が高くなると小さくなる。DO は河川や海域の自浄作用、魚類などの水生生物の生活には不可欠なものであるが、一般に魚介類が生存するためには 3mg/L 以上、好気性微生物が活発に活動するためには 2mg/L 以上が必要で、それ以下では嫌気性分解が起こり、悪臭物質が発生する。
リン酸態リン μg-at/L PO4-P リン酸イオンとして存在するリンで、pH により形態が変化する。栄養塩として藻類に吸収利用されるため、富栄養化現象の直接的な原因物質となる。水中のリンの負荷源は主に人為的なもので、開発による流出土壌、森林や農地に過剰散布された肥料、家庭排水、し尿、工場排水、畜産排水などがある。通常の下水処理ではリンは完全に除去することは出来ないが、最近では、凝集沈殿法や生物処理などの高度処理により除去率を向上させている。
アンモニア態窒素 μg-at/L NH4-N 水中にアンモニウム塩として含まれている窒素のこと。主としてし尿や家庭下水中の有機物の分解や工場排水に起因するもので、それらによる水質汚染の有力な指標となる。自然水中では次第に亜硝酸態や硝酸態に変化していく。
亜硝酸態窒素 μg-at/L NO2-N 亜硝酸塩として含まれている窒素のことで、水中では亜硝酸イオンとして存在。亜硝酸態窒素は、主にアンモニウム態窒素の酸化によって生じるが、きわめて不安定な物質で、好気的環境では硝酸態に、嫌気的環境ではアンモニウム態に速やかに変化する。
硝酸態窒素 μg-at/L NO3-N 硝酸塩として含まれている窒素のことで、水中では硝酸イオンとして存在。種々の窒素化合物が酸化されて生じた最終生成物で、富栄養化の原因となる。
ケイ酸態ケイ素 μg-at/L SiO2-Si ケイ酸は代表的な植物プランクトンであるケイ藻類の主成分であるため、その濃度は藻類の消長を推定する指標にもなる。
クロロフィルa μg/L Chla クロロフィル(葉緑素)はクロロフィルa,b,c及びバクテリオクロロフィルに分類されるが、このうちクロロフィルa は光合成細菌を除く全ての緑色植物に含まれるもので、藻類の存在量の指標となる。

重金属類

項目単位略号説明
フッ素 mg/L F フッ素は淡黄色の気体で、天然にはフッ化物イオン(F-)として広く存在している。主な用途は、フッ素系樹脂等の製造原料、侵食作用を利用したガラスのつや消し、金属の研磨やステンレスの洗浄等がある。人体への影響は、中枢神経障害が知られている。また、成長期に高濃度のフッ素を含む水を摂取すると斑状歯が発生するほかフッ素沈着症が生じる。

炭化水素

項目単位略号説明
炭化水素 μg/L HC 炭化水素は、炭素と水素が結合した化合物。産業及び生活排水や海運活動(船舶事故等含む)による油類汚染に含まれる物質。

底質調査の測定項目

一般項目

項目単位略号説明
硫化物 mg/g(dry) - 底泥中のタンパク質や硫酸から嫌気性菌の作用等により生成された硫化物イオンが、金属元素と結合した物質。硫化物イオンは、酸性の条件下では硫化水素を発生させる。硫化水素は、無色、腐卵臭の刺激性の気体で、人体に対して毒性があり、致死濃度は 500~1000ppm と言われている。
有機態炭素 mg/g(dry) TOC 水中に含まれる有機物を全炭素量で表したもので、有機汚濁の指標としてよく用いられる BOD や COD が酸素消費量を表すのに対し、TOC は有機物そのものの量を表す。
全リン mg/g(dry) TP 水中に含まれているリン化合物全体のことで、無機態リンと有機態リンに分けられる。動植物の成長に欠かせない元素で、富栄養化の目安になる。窒素とともに富栄養化の原因物質とされている。
全窒素 mg/g(dry) TN 水中に含まれている無機態窒素化合物(アンモニウム態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素)と有機態窒素化合物全体のこと。窒素は、動植物の増殖に欠かせない元素であるが、燐とともに富栄養化の原因物質とされている。

重金属類

項目単位略号説明
全クロム μg/g(dry) T-Cr クロムはいくつもの結合形式の化合物をつくるが、全クロムとはそれら全てのクロムのことを指し、常温では極めて安定な重金属である。水中のクロムは通常三価と六価の形で存在。クロムの毒性が問題になるのは「六価クロム」の化合物である。六価クロムは毒性が特に高いため、全クロムとは別に厳しい排水基準が設定されている。人体への影響としては皮膚潰瘍、鼻中隔穿孔、肺がん等がある。

臭素系難燃剤

項目単位略号説明
ポリ臭化ジフェニルエーテル ng/g(dry) PBDEs 置換臭素の数(1~10)や位置によって、PCB と同様に209種の異性体が存在する。このうち4~7臭素置換体は POPs 条約の対象物質であり、化審法に基づく第一種特定化学物質に指定され、製造・輸入には許可が必要で、特定の用途を除き使用が禁止されている。
α-HBCD ng/g(dry) - 1,2,5,6,9,10-ヘキサブロモシクロドデカン (HBCD) には複数の異性体があり、主なものは α-HBCD、β-HBCD、γ-HBCD の3種類である。PBDE の代替物質の一つとして今後使用量の増加が予測されている。POPs 条約の対象候補物質であり、化審法に基づく第一種監視化学物質及び第三種監視化学物質に指定されている。
β-HBCD ng/g(dry) -
γ-HBCD ng/g(dry) -
ヘキサブロモシクロドデカン ng/g(dry) HBCD

炭化水素

項目単位略号説明
ベンゾ(a)ピレン ng/g(dry) - ベンゾ (a) ピレンは多環芳香族炭化水素(PAH)の代表的な物質。主に石油系燃料の不完全燃焼より発生することから、廃棄物の焼却、自動車の排ガス、煙草の煙、暖房器具などが発生源とされる。発がん性を持つと言われており、近年では内分泌撹乱作用を有することも疑われている。大気中の PAH が降雨等によって流出し、水環境に与える影響も少なくない。海洋環境中では比重が大きいため速やかに堆積物に移行し、海底の堆積物から高濃度で検出されることがある。

マーカー

項目単位略号説明
コプロスタノール ng/g(dry) - 人間などの糞便に由来する物質で、し尿起源の影響を検出する上で指標となる物質。
直鎖アルキルベンゼン ng/g(dry) LAB 合成洗剤として使用されている界面活性剤の中で生産・消費量が最も多い物質。有機性汚泥(本調査では下水汚泥投棄処理)の影響を検出する上で指標となる物質。

生体濃度・生物群集調査の対象生物<

項目説明
動物プランクトン 浮遊生物(水域の生物のうち、水流に逆らって移動することができず、受動的に運ばれる受け身の行動生態をとる生物)のことをいう。ただし、全てのプランクトンの動きが完全に受動的というわけではなく、遊泳能力があるプランクトンもある。大きく、植物プランクトンと動物プランクトンに分けられる。
植物プランクトンは光合成に必要な光が届く海表面から水深数m~150mまでのごく限られた水域だけに生息し、生産者として海洋の膨大な生物量を支えている。また、動物プランクトンは、表層から深海層まで広く分布しており、一次消費者として植物プランクトンを餌とし、魚類などの餌となる。植物プランクトンには珪藻類、渦鞭毛藻類、藍藻類などが含まれ、動物プランクトンには有孔虫やクラゲ、オキアミ、ミジンコなど、原生動物から原索動物まで多彩な分類群が含まれる。
瀬戸内海や東京湾で大量発生し、赤潮を引き起こすのは、渦鞭毛藻類や珪藻類などの植物プランクトンである。
植物プランクトン
メイオベントス ベントスとは水底に生活する生物の総称。大きさでメイオベントス<マクロベントス<メガベントスと分類される。
メイオベントスは1 mm の篩を通過し、0.04 mm 前後の篩上に留まる大きさのもので、主な出現動物群として、線虫類、カイアシ類(主としてソコミジンコ類)などがある。
マクロベントスは採泥器で採取した堆積物を1mmの篩でふるい、篩上に溜まったもので、主な出現種として、多毛類、クモヒトデ類、甲殻類、二枚貝類などがある。
メガベントスはビームトロール、ベイトトラップ等で採取されたもので、ナマコ類、甲殻類などがある。
マクロベントス
メガベントス
マイクロネクトン ネクトンとは遊泳生物(水域の生物のうち、プランクトンとは対照的に自由遊泳能力が比較的大きく、水流に逆らって自力で移動することができる生物)のことをいう。ハダカイワシ類、遊泳性小型甲殻類などを含む。
イガイ類、底生性サメ類、イカ類、タラ類、甲殻類 軟体部、肝臓部、筋肉部を対象として分析している。重金属類や有機化学物質は、筋肉よりも肝臓に高濃度に蓄積されやすい性質があるため、これらをより高感度で検出できるように、肝臓を分析部位としているが、PCB 及びダイオキシン類に限っては、他の調査との比較のため、筋肉も分析部位としている。

生体濃度調査の測定項目

項目単位略号説明
脂質量 - PCB、ダイオキシン類、有機スズ化合物は、主として脂質部分に蓄積されると考えられるため、脂質量当りに換算した濃度を算出。

プラスチック類調査の測定項目

項目単位説明
石油化学製品 千個/ha
(g/ha)
(1995~2000)
発泡スチロール片,膜状の石油化学製品,塊状の石油化学製品,粒状の石油化学製品,紐状の石油化学製品,素線,ゴム状製品,その他の石油化学製品の個数(重量)の総和
(2001~)
発泡スチレン,薄膜状プラスチック,プラスチック製品の破片,レジンペレット,化学繊維,モノフィラメント,タバコフィルターの個数(重量)の総和
その他の非自然物 (1995~2000)紙,布,ガラス製品,タールボールの個数(重量)の総和
(2001~)紙,タールボールの個数(重量)の総和
植物 (1995~2000)植物の個数(重量)
(2001~)陸上植物の破片の個数(重量)
動物 (1995~2000)動物の個数(重量)
(2001~)昆虫の個数(重量)
その他の自然物 (1995~2000)その他の自然物の個数(重量)
(2001~)軽石の個数(重量)
不明・その他 不明・その他の個数(重量)