脊椎動物の味覚は多様かつ複雑な進化を遂げてきた!
発表日:2023.12.21
味を感じるプロセスは、食物に含まれる化学物質(味物質)が舌に触れ、味蕾に集中している味細胞に達することから始まる。味細胞の表面には「味覚受容体」と呼ばれるタンパク質が存在している。味覚受容体が受け取った味物質の情報は、味細胞中の他のタンパク質にリレーされ、さらに電気信号に変換される。その信号が神経細胞を通じて大脳に伝えられることで、基本五味(甘味・旨味・塩味・酸味・苦味)を認識する。甘味・旨味は生命維持に必要なエネルギー源(糖分)とタンパク質源(アミノ酸)の摂食を左右している。脊椎動物の様々なモデル生物を用いた研究が盛んに行われ、甘味・旨味の「味覚受容体タイプ1(TAS1R)」が同定されており、ヒトも他の脊椎動物もTAS1R遺伝子は3種類で、それらがペアとなって甘味または旨味を判断していると考えられてきた。近畿大学農学部の西原准教授と明治大学農学部の戸田特任講師、石丸教授らの研究グループは、近年、既知のTAS1R遺伝子に分類できないものが発見されていることを踏まえ、ヒトやモデル生物に限らず幅広い生物種のゲノム情報を徹底的に調査した。ヒト、ゼブラフィッシュ以外の脊椎動物として、トカゲ、アホロートル(ウーパールーパー)、シーラカンス・ハイギョ・ポリプテルス・ゾウギンザメなどの魚類も対象としている。ゲノム情報からTAS1R遺伝子をすべて収集した結果、TAS1R遺伝子は3種類どころか11種類存在することが明らかになった。また、この新知見を対象動物の進化系統樹と比較したところ、ヒトを含む硬骨脊椎動物の祖先は9種類のTAS1R遺伝子を持ち、それらが長い進化の過程で徐々に失われ、哺乳類と真骨魚類で3種類ずつ残ったことが分かった。さらに、ポリプテルス・ゾウギンザメといった原始的な生物の特徴をもつ魚類の受容体を詳細解析したところ、それらの魚類が哺乳類では感知できない幅広いアミノ酸を受容できることが判明した。総じて、脊椎動物の味覚は思いのほか多様で複雑な進化を遂げてきたことが示唆された。「味覚進化」は脊椎動物が地球上のさまざまな環境に適応できた要因の一つであり、多様な味覚受容体を持つことで生息域に適応した食性を獲得できたと考察している(掲載誌:Nature Ecology & Evolution、DOI: 10.1038/s41559-023-02258-8)。
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