中海・宍道湖の塩水侵入~ダム・放水路による軽減は困難
発表日:2025.05.07
島根大学エスチュアリー研究センターの矢島教授を中心とする国際共同研究グループは、宍道湖・中海における海面上昇の影響を検証した論文を公開した(掲載誌:Journal of Hydrology: Regional Studies)。中海と宍道湖は連結した汽水湖であり、近年の気候変動の影響を大きく受けている。本研究では、水文学・水理学の分野で広く利用されている流出解析モデルと湖水質モデルを用いて、海面上昇が両湖の塩分分布にどのような影響を与えるかを検討した。また、流域に整備された尾原ダムや斐伊川放水路がその影響をどれほど緩和あるいは増幅しているかについても分析した。その結果、宍道湖では中海や日本海に比べて水位の上昇が相対的に小さいため、海水の遡上(塩水の侵入)を受けやすく、塩分の増加が顕著であることが判明した。また、大規模な洪水時でも尾原ダムや斐伊川放水路による塩分への影響は限定的であることが確認された。これらの知見より、浅い湖底部ほど海水の影響を受けやすく、今後の生態系や漁業資源に与える影響が懸念され、気候変動にともなう海面上昇への適応戦略の重要性が示された。──本成果のポイントは、構造物を配置して塩分増加を完全に防ぐことは難しいことが判明したことだ。より効果的な中海・宍道湖の保全管理手法が求められることになるだろう。