ミドリイシ属サンゴにおける種間交雑と遺伝子浸透の実証
発表日:2025.06.10
琉球大学 熱帯生物圏研究センター 瀬底研究施設の守田准教授らは、1998年の大規模白化後に回復した沖縄の造礁サンゴ(ミドリイシ属)において、異種間交雑とそれに伴う遺伝子浸透(introgression)が進行していたことを明らかにした。
地球温暖化による海水温上昇は世界各地のサンゴ礁に白化を引き起こし、沖縄でも1998年に大規模な白化が発生した。瀬底島周辺ではその後も海水温の上昇が続いているが、ミドリイシ属サンゴは同地域のサンゴ礁構造を維持し続けている。本研究では、3種のミドリイシ属サンゴ(<i>Acropora cf. gemmifera, A. cf. humilis, A. cf. monticulosa</i>)を対象に、形態観察、交配実験、ゲノム解析を統合的に実施した。
その結果、自然交雑の証拠として中間的な形態を持つ群体の存在や、異種間での正常な受精が確認された。ゲノム解析では、交雑個体が親種の中間に位置する遺伝的特徴を持ち、ABBA-BABAテストにより遺伝子浸透の実態が定量的に示された。さらに、交雑が起きていない種群と比較して、交雑種群では遺伝的多様性が高く、近交係数も低い傾向が見られた。
特定のゲノム領域では、交雑によって導入された遺伝子が環境ストレスに対して有利に働いた可能性があり、選択圧や集団分化の痕跡も確認された。数理モデルによる推定では、交雑は1998年の白化イベント後、約5世代以内に発生したとされる。
守田准教授は「種間交雑と遺伝子浸透は、サンゴが環境変化に適応するための重要な戦略である可能性がある」と述べている。
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