国立公園の入域料等―制度なき導入の現状と課題(北大・環境省)
発表日:2025.07.02
北海道大学の研究グループは環境省と共同で、全国35の国立公園における利用者負担の実態を調査し、2020年以降、「入域料」や「協力金」など(以下「入域料等」)の導入事例が急増していることを明らかにした。
国立公園(National Park)制度は、1872年にアメリカのイエローストーン国立公園が創設されたことを契機に世界各国へと広まり、現在では自然保護の象徴的存在として広く認識されている。国立公園の維持管理には、財政的および人的資源の継続的な投入が不可欠である。
近年、「自然を守るために、誰が、どこまで、どのように負担すべきか」といった責任分担に関する議論が活発化している。日本の国立公園においては、管理予算や人員の不足が深刻化しており、入域料等の導入が現実的な選択肢として検討されている。しかしながら、利用者による費用負担や入域料等の使途については、自然公園制度上における明確な位置づけがなされていないのが現状である。
今回の調査では、2023年度に全国で127件の入域料等の導入事例が確認された。内訳は、入域料に関する事例が13公園で16件、自治体や民間による資金調達が28公園で77件、保護と利用の好循環を目指す取り組みが17公園で34件であった。また、ふるさと納税やクラウドファンディング、グッズ販売、ガイドツアー収益の活用など、多様な資金調達手法が用いられていることも明らかとなった。一方で、入域料等の導入に際しては、利用者へのアンケート調査や実証実験を通じて、地域における合意形成を重視する傾向が見受けられた。総じて、自然環境の保全および施設の維持管理に必要な財源確保の手段として、入域料等の導入が急速に広がっている実態が浮き彫りとなった。研究グループは、国内外の制度や議論の整理、導入事例の精査・分析を通じて、費用負担の公平性や合意形成のあり方を検討する必要性を強調している。
入域料等の導入を巡っては、料金設定の公平性、支払い方法の多様化、費用の使途の透明性など、制度設計上の課題も多く残されている。研究グループは、低所得者層や地元住民への配慮、子どもや高齢者への割引制度の導入など、具体的な方策についても提言している。