融雪期に見られる高山植物の巧妙な種子食害回避戦略とは?
発表日:2025.08.27
北海道大学大学院地球環境科学研究院・工藤岳特任准教授らの研究グループは、北海道・大雪山系に生育する高山植物「ハクサンボウフウ」を対象に、雪解けのタイミングが植物の繁殖形質に与える影響を調査した。
本研究では、雪解けの早い地点から遅い地点までを連続的な環境の違いとして捉え、「雪解け傾度」と定義。これは、標高や気温のような自然環境の勾配と同様に、植物の開花時期や昆虫の活動時期に影響を与える重要な要因である。調査は5つの地点で4年間にわたり行われ、各地点のハクサンボウフウの花の構成や種子の食害状況を詳細に記録した。――ハクサンボウフウは、1つの株に雄花と両性花(雄しべと雌しべを持つ花)を混在させる性質を持つ。研究によると、雪解けが早く7月に開花する個体群では、ササベリガの幼虫による種子食害が多く、両性花を増やしても種子の生産効率が下がってしまう。一方、雪解けが遅く8月に開花する個体群では、食害がほとんどなく、両性花を増やすことで種子生産が増加する傾向が見られた。また、雪解けが早い場所では雄花の割合が高く、遅い場所では両性花の割合が高いという傾向が明らかになった。これらの新知見は、種子を食べる昆虫(ササベリガ)との関係が、植物の進化に影響を与えていることを示している。
このようなことから、雪解け傾度に沿って食害リスクが変化し、それに応じて植物が雄花と両性花の比率を調整することで、繁殖成功を高めていると考えられた。研究グループは、「これが自然選択による進化の一例であり、わずか数百メートルの距離でも進化圧が異なることを示す貴重な成果」だとしている。――近年、気候変動の影響で雪解けの時期が全国的に早まる傾向があり、高山植物の生態系にも変化が生じている。今回の研究は、こうした環境変化が植物と昆虫の関係性にどのような影響を与えるかを理解する上で、重要な手がかりとなるだろう。