小川原湖湖沼群で希少な益虫を22年ぶりに記録、新種も確認
発表日:2025.09.11
弘前大学は、北日本の湿地に生息するマキバサシガメ属の一群「ナガマキバサシガメ亜属」について分類学的調査を行い、1新種を含む計4種が異なる草本群落に生息していることを確認した(掲載誌:Journal of Insect Biodiversity)。新種「シオナガマキバサシガメ」は、北海道の勇払川および東北地方の北上川河口付近の湿地で採集されたが、北上川では東日本大震災以降、植生の被害により確認されていない。
マキバサシガメ属は小昆虫を捕食するカメムシの一群で、土着天敵として農業害虫の防除に有効とされる。日本では6亜属10種が記録されており、外観が酷似するため非専門家による同定が困難であった。今回の研究では、同定形質を網羅した図説検索を作成し、分類学的な基盤整備を進めた。
調査は弘前大学農学生命科学部附属白神自然環境研究センターの相馬純助教と、小樽市総合博物館の山本亜生学芸員が中心となり、標本の同定と生息環境の確認を実施。既知の3種(ハイイロ・タイワン・オオナガマキバサシガメ)は、それぞれ異なる草丈の単子葉草本群落に生息しており、同所的に得られることはなかった。新種のシオナガマキバサシガメも河口付近の湿地に限定的に生息しており、開発や災害の影響に脆弱とされる。――本研究は、近縁種が類似環境で種分化した要因の解明に資するものであり、進化生物学的にも意義がある。また、青森県では22年ぶりにタイワンナガマキバサシガメの生息が確認され、青森県の小川原湖湖沼群がタイワンナガマキバサシガメの本州における唯一の生息地であることを裏付ける重要な成果と言える。