マナガツオに空白の世代―内湾域の「塩分動態」が再生産を左右
発表日:2025.09.29
長崎大学総合生産科学研究科(水産学系)の山口敦子教授と荻野義視研究員は、有明海に来遊するマナガツオには“空白の世代”が存在することを解明した(掲載誌:Estuarine, Coastal and Shelf Science)。
マナガツオは高級魚として広く知られ、基本的には外洋性であるが繁殖期には内湾域に来遊する。今回、山口教授らは、有明海で漁獲された個体の耳石切片を用いて、有明海に来遊するマナガツオの年齢査定を行った。その結果、2016年生まれの個体が多かった一方で、2017年生まれの個体が全く確認されないという事実が明らかになった。その原因を探るため、環境要因との相関分析を行ったところ、繁殖期のマナガツオは内湾域の塩分濃度がわずかに高いだけで再生産が失敗していることが判明した。これは、降雨や河川流入による淡水供給が塩分濃度を左右し、繁殖成功に大きく影響することを示している。
本成果は、マナガツオ科における耳石切片を用いた年齢査定の初成功事例となる。一連の査定を通じて、有明海に来遊するマナガツオの雄は最長8歳、雌は13歳であることが明らかとなった。また、水産資源として重要な1kg以上の個体のほとんどが雌であり、雄の約3倍の体重に達することも分かった。さらに、加入量が多い年には初期成長が悪化する「負の密度効果」も確認され、成育場である内湾域の面積が資源量を制限する可能性が示唆された。
本研究は、日本におけるマナガツオ資源の管理に新たな知見を提供するとともに、汽水域の環境保全の重要性を示している。近年の気候変動に伴う海水温上昇や集中豪雨による低塩分化に加え、高塩分化も繁殖失敗の要因となる可能性があり、今後は塩分動態とその要因を精査することで、沿岸域の生物生産性の回復に資する取り組みが期待される。
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