神戸大学、理化学研究所、農研機構、北海道大学の研究グループは、ジャガイモに寄生する植物寄生性線虫「ジャガイモシストセンチュウ」の孵化を誘導する鍵物質「ソラノエクレピンC(SEC)」を新たに発見し、その活性化に土壌微生物が関与することを明らかにした。SECは植物が根から分泌する不活性な化合物であり、土壌中の微生物によって変換されることで、線虫の孵化を促す活性物質「ソラノエクレピンA(SEA)」へと変化する。
ジャガイモシストセンチュウは、農業に深刻な被害をもたらす国際的な検疫対象害虫であり、卵は土壌中で20年以上生存する。これまで、植物が分泌する孵化促進物質が線虫の孵化を誘導することは知られていたが、その前駆体の存在や微生物の関与については未解明であった。
本研究では、トマトの毛状根培養液を用いてSECの存在を確認し、精密質量分析およびNMRによりその構造を決定。SECはSEB(ソラノエクレピンB)のアセチル化体であり、土壌中で微生物によりSEB、さらにSEAへと変換されることが実証された。SEC自体の孵化促進活性はSEAの約1万分の1と極めて低く、植物はこの不活性な形で物質を分泌し、微生物との相互作用を通じて活性化させていることが示唆された。加えて、SECの分泌量は窒素やリンの欠乏条件下で増加することが確認され、植物が栄養ストレス下で戦略的に微生物との共生関係を構築している可能性がある。
これらの知見は、「植物-微生物-線虫の三者間相互作用」の理解を深めるとともに、SECを標的とした新たな防除資材の開発や、微生物変換を制御する技術への応用が期待される。
本成果は、紅色非硫黄光合成細菌などを用いた持続可能な物質生産の基盤理解にも資するものであり、「生分解性プラスチックの生産ツールとしての応用可能性」も示している(掲載誌:New Phytologist)。