電気自動車(EV、Electric Vehicle)とは、バッテリーに蓄えた電気をモーターに供給し、走行のための駆動力を得る自動車のことです。量産型電気自動車の一般向け販売が2010年から始まったことや、高性能バッテリーの登場などにより2014年度末までに国内での保有台数は7万台を超える水準となりました。
電気自動車は、省エネ・低公害の次世代自動車の代表的存在として期待されています。シンクタンク各社の予測では、ハイブリッド車(HV)が次世代自動車の普及の中心となっていく2020年以降は、電気自動車や電気自動車とハイブリッド車の中間的存在であるプラグインハイブリッド車(PHV)の普及が本格化するという見方で共通しています。
※掲載内容は2016年3月時点の情報に基づいております。
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電気自動車とはバッテリー(蓄電池、二次電池とも呼ばれる)に蓄えた電気をモーターに供給し、走行のための駆動力を得る自動車のことです。
走行時に大気汚染物質を全く出さないため、低公害車と位置づけられます。また、走行に伴う騒音も大幅に低減されます。
電源構成の化石燃料比率が高まるほど、CO2排出量も増えることになりますが、太陽光発電や風力発電等の再生可能エネルギーから作られた電力で充電して走行する場合は、CO2排出量は実質的にゼロになります。モーターやバッテリーの効率向上により、火力発電等の化石燃料が主体の電源構成であっても、ガソリン車よりCO2排出量が少ないという試算もあります。
図1 電気自動車とガソリン軽自動車の環境効率の比較
出典:国立環境研究所「環境儀 NO.11 接続可能な交通への道 環境負荷の少ない乗り物の普及をめざして」
http://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/11/10-11.html
電気自動車は、量産型が登場する以前は、高頻度の充電が必要であるため、工場構内のフォークリフトやゴルフ場のカートなど、利用距離が短く充電場所が確保できるなど条件の整った場所でのみ使用されてきました。排出ガスを出さず、騒音も小さいというメリットはあるもののなかなか普及は進まず、これらの保有台数は合計しても1万台に達しない時期が長く続きました。しかし、2009年に三菱自動車により世界で初めて量産化され、2010年末には日産から発売されたことで、状況は一気に変わり、2014年度末までに国内の保有台数が7万台を超える水準となりました。
年度末 | 2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 |
---|---|---|---|---|---|
乗用車 | 4,636 | 13,266 | 24,983 | 38,794 | 52,639 |
貨物車 | 7 | 11 | 25 | 31 | 384 |
乗合車 | 11 | 15 | 22 | 28 | 37 |
特種車 | 16 | 30 | 31 | 34 | 35 |
軽自動車 | 4,360 | 8,940 | 13,646 | 15,870 | 17,611 |
合計 | 9,030 | 22,262 | 38,707 | 54,757 | 70,706 |
図2 電気自動車の保有台数の推移(各年度末時点)
自動車検査登録情報協会データと主要メーカへのヒアリング調査等により算出した各年度末時点の推定値。以下のデータをもとに、PHVとFCVの数値を除外して作成。
出典:一般社団法人次世代自動車振興センター「EV等保有台数」
http://www.cev-pc.or.jp/tokei/hanbai.html
電気自動車(EV)は、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)とともに次世代自動車と位置づけられています。2009~2010年に試算された次世代自動車の「2020年の世界販売台数予測」によれば、EV・PHVの普及台数予測は、燃料価格などの不確定要素を含むため215万台~720万台と幅をもった数値となっていました。ただ、予測を行った各機関に共通しているのは、2020年段階まではHVが普及の中心となるものの、それ以降にはEV・PHVの普及が本格化するという見方です。
表2 複数のシンクタンクによる2020年の世界販売予測
出典:一般社団法人次世代自動車振興センター、三井情報株式会社「平成23年度 電気自動車等の普及に関する調査 調査報告書」
http://www.cev-pc.or.jp/chosa/pdf/2011_1_honpen.pdf
電気自動車は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンを搭載した自動車に比べて部品点数が少なく、構造がシンプルで、車両の小型化も容易です。一方、走行性能や航続距離はバッテリーの性能に大きく依存します。ここでは電気自動車を支える技術の概要について解説します。
図3 EVの基本的な仕組み
電気自動車は、バッテリーに蓄えた電力でモーターを駆動し、電気エネルギーを運動エネルギーに変換しながら走行します。バッテリーは蓄電池、または二次電池とも呼ばれます。
1回の満充電で走行可能な距離を航続距離と呼びますが、この航続距離に最も大きな影響を与えるのが、バッテリーの容量です。近年では鉛蓄電池やニッケル水素蓄電池に比べ、性能劣化が小さく、エネルギー密度の高いリチウムイオン電池が主流となっています。とくにエネルギー密度に関してリチウムイオン電池は、鉛蓄電池に比べ3倍以上となっており、加えて急速充電も可能であることから、車体の軽量化や使い勝手の向上、ひいては自動車としての魅力の向上に大きく貢献しています。
電気自動車には、供給される交流電流の周波数を変えることで、回転数を制御する「交流同期」形式のモーターが主に使われています。内部にはネオジム磁石などの強力な永久磁石が使われており、よりコンパクトで高い性能を発揮できるような工夫や、高温で磁力がなくなることを防ぐ温度制御等が行われます。
また、減速時には運動エネルギーを電気エネルギーに変換する「回生」を行って電力を回収し、バッテリーに蓄えることで、走行時のエネルギー使用効率を高めています。
バッテリーは直流電流を扱いますが、モーターに供給されるのは交流電流です。電気自動車では、この交直変換を行うのがインバーターで、そこでは「パワー半導体」と呼ばれる電力変換デバイスが使われます。このパワー半導体の効率や耐熱性が、システムの性能を決めることになります。
さらに、回転数制御のための周波数変換、アクセルやブレーキの踏み加減に応じた駆動・回生制御などのためにも、多数の電子機器が搭載されています。
しかも、バッテリーは、極端な高温や低温、過充電・過放電で大幅に性能が低下し、日々の充放電の繰り返しによっても劣化が避けられません。バッテリーの性能を常に良い状態に保つための充放電制御は、量産車には欠かせない技術となっており、このために独立したバッテリーコントローラーも設けられています。
多くのEVや一部のPHVでは、外部からバッテリーへの電力供給に2系統を備えています。ひとつが100Vないし200Vの家庭用交流電源のコンセントを使用する“家庭充電用プラグ”で、もうひとつが2010年春に東京電力と主要自動車メーカーが中心となり立ち上げた「CHAdeMO(チャデモ)」と呼ばれる日本発の共通規格の“急速充電用プラグ”です。これらはプラグの形状で区別されています。
家庭用電源では、1つのコンセントから供給できる電力に上限がある(100Vで1.5kVA、200Vで3kVA)ため、満充電までには数時間を要します。しかし、急速充電器では10~50kVAの大電力を供給できるため、電池が空の状態から80%まで約30分と短時間で充電することが可能です(50kVAの場合)。
非常に大きな電流を扱うため、次のような形で二重三重の安全対策が施されており、製造される充電器も、認証制度により安全が確保されています。
経済産業省はEVの本格普及に向けた実証実験のためのモデル事業「EV・PHVタウン推進アクションプラン」を実施し、2009年3月に第1期EV・PHVタウンとして愛知、青森、神奈川など8都府県を選定しています。
2010年4月に策定された「次世代自動車戦略2010」においては、「2020年までに乗用車新車販売の15%~20%をEV・PHVとする」ことが政府目標となっています。
アクションプランは、各地の先駆的な取り組みから得られた教訓や「気づき」を広く共有し、その実現に資するものと位置づけられており、2010年12月からの第2期では大阪、岡山、沖縄など10府県が選定され、そこで得られた知見が「ベストプラクティス集」として公開されています。
図4 EV・PHVタウン構想(黒字:第1期、赤字:第2期)
出典:経済産業省「EV・PHV情報プラットフォーム:EV・PHVタウン ベストプラクティス集」
http://www.meti.go.jp/policy/automobile/evphv/town/state/best_practice.html
CEVとはクリーンエネルギー自動車のことで、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)、クリーンディーゼル車(CDV)のうち、指定車種が補助金の対象となっています。これらの環境・エネルギー性能に優れた自動車の普及促進にあたる一般社団法人次世代自動車振興センターでは、電気自動車をはじめとするCEVの購入や、充電設備の設置に対して補助金の交付や情報提供を行い、車両とインフラの両面からCEVの普及を後押ししています。
図5 補助金対象となっているEVの代表的なグレード
出典:一般社団法人次世代自動車振興センター「補助対象最新車両・充電設備:CEV補助金対象 最新車両(EV)」
http://www.cev-pc.or.jp/newest/ev.html
電気自動車は、1日数十キロ以内の普段の使用では、家庭での充電で十分に使用可能です。しかし、それを超えるような中・長距離を移動する場合には、目的地や経路となる幹線道路沿いの施設や高速道路沿いのサービスエリアでの充電が必要となるため、急速充電器の普及が期待されています。
図6 急速充電器の案内サイン
急速充電器の設置には、高圧受電設備と業務用電力の契約が必要となりますが、補助金や助成制度の後押しもあって、自動車販売店や公共施設、ショッピングセンターなどでの設置が進み、CHAdeMO方式の急速充電器は国内では6,000基を超え、世界全体では1万基を超える規模となりました。
急速充電器の位置や料金、営業時間などに関する情報はオープンデータとして共有され、利用者のクチコミなども加わって、専用アプリで提供されています。
図7 充電スタンドのクチコミ情報サイトGoGoEV
出典:株式会社ゴーゴーラボ「電気自動車充電スタンド情報GoGoEV」
http://ev.gogo.gs/
図8 高速道路のサービスエリアに設置された急速充電器
出典:株式会社ゴーゴーラボ「電気自動車充電スタンド情報GoGoEV」
http://ev.gogo.gs/
電気自動車の多くの部品は、ハイブリッド車にも使用されています。このことから「レアメタル等の原料供給に関わる問題」や「ライフサイクルアセスメント(LCA)による環境影響評価」、「パワー半導体の高性能化への期待」といった、ハイブリッド車と同様の課題が電気自動車にも存在します。これについては、ハイブリッド車の項目を参照してください。
以下に、電気自動車の進化の方向性を示す技術用語について解説します。
電気自動車のモーターの配置は、エンジン車と同様にエンジンルーム内のほか、車輪の近傍や車輪内部に設置する「インホイールモーター」も可能となります。車室内を広く保ちながら駆動ロスを抑え、4輪を独立に制御することで走行性能を上げることができるEVならではの技術です。
図9 インホイールモーター形式の試作車
出典:シムドライブ株式会社「先行開発車第4号 SIM-HAL」
http://www.sim-drive.com/about/outcome.html
レンジエクステンダーとは、電気自動車の航続距離を伸ばすための車載発電機のことです。小型のエンジン等で発電し、日常の短距離での使用はもちろん、長距離ドライブでも電池切れの心配をそれほど気にせず走ることができます。オートバイ用の小型エンジンをレンジエクステンダーとして搭載した車種もあります。
レンジエクステンダー搭載の電気自動車は、見方を変えればエンジン・バッテリー・モーターを直列に配置した「シリーズ・ハイブリッド車」の一種と言えますが、シリーズ・ハイブリッド車と比較するとレンジエクステンダーの発電機は、モーターを直接駆動するほどの発電能力はなく、電気は常にバッテリーから供給されるため、あくまでも航続距離を延ばすための補助的な役割を担うものとなります。
電気自動車は大容量のバッテリーを搭載しているため、パワーコンディショーナーを経由して家庭の電力として供給することができます。この仕組みのことを「V2Hシステム」といいます。充電には夜間電力を利用し、日中はバッテリーに蓄えられた電力を家庭に供給することで、節電やピークカットが可能となり、さらに非常時の電源としても利用できます。電気自動車を電力ネットワークと接続するV2G(Vehicle to Grid)も構想されています。
[1] 国立環境研究所. 環境儀 NO.11 接続可能な交通への道 環境負荷の少ない乗り物の普及をめざして. http://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/11/10-11.html, (参照 2016-02-15).
[2] 一般社団法人次世代自動車振興センター. EV等保有台数. http://www.cev-pc.or.jp/tokei/hanbai.html, (参照 2016-02-15).
[3] 一般社団法人次世代自動車振興センター, 平成23年度 電気自動車等の普及に関する調査 調査報告書. 2012-03. http://www.cev-pc.or.jp/chosa/pdf/2011_1_honpen.pdf, (参照 2016-02-15).
[4] 経済産業省. EV・PHV情報プラットフォーム:EVの仕組み. http://www.meti.go.jp/policy/automobile/evphv/what/ev.html, (参照 2016-02-15).
[5] チャデモ協議会. CHAdeMO方式の特長:安全設計. http://www.chademo.com/wp/japan/technology/safety/, (参照 2016-02-15).
[6] 経済産業省. EV・PHV情報プラットフォーム:EV・PHVタウン ベストプラクティス集. http://www.meti.go.jp/policy/automobile/evphv/town/state/best_practice.html, (参照 2016-02-15).
[7] 一般社団法人次世代自動車振興センター. 補助対象最新車両・充電設備:CEV補助金対象 最新車両(EV). http://www.cev-pc.or.jp/newest/ev.html, (参照 2016-02-15).
[8] 株式会社ゴーゴーラボ. 電気自動車充電スタンド情報GoGoEV. http://ev.gogo.gs/, (参照 2016-02-15).
[9] チャデモ協議会. CHAdeMO急速充電器設置箇所数推移グラフ. http://www.chademo.com/wp/pdf/japan/qckasyosuii.pdf, (参照 2016-10-12).
[10] シムドライブ株式会社. 先行開発車第4号 SIM-HAL. http://www.sim-drive.com/about/outcome.html, (参照 2016-02-15).
[11] BMW Japan. BMW i3:駆動システムとテクノロジー. http://www.bmw.co.jp/ja/all-models/bmw-i/i3/2016/drive-train-technology.html, (参照 2016-10-12).
[12] ニチコン. EVパワー・ステーション. http://www.nichicon.co.jp/products/v2h/index.html, (参照 2016-02-15).