環境技術解説

生分解性プラスチック

生分解性プラスチックは、微生物の働きによって最終的に水と二酸化炭素にまで分解されることから、廃棄物処理問題の解決につながると期待されています。現在、開発されている生分解性プラスチックの種類について整理するとともに、幅広い用途や今後の可能性などを紹介します。

生分解性プラスチックの分解のようす

写真1 生分解性プラスチックの分解のようす
出典:グリーンプラの特長(日本バイオプラスチック協会)

※掲載内容は2018年3月時点の情報に基づいております。
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1.生分解性プラスチックとは

プラスチックは現代社会で幅広く利用され、社会活動に大きな恩恵をもたらしており、その利便性の高さから需要が増大し、生産量及び廃棄量が大幅に増えました。2008年に発生した世界的な金融危機や原油価格の高騰により需要が減り、近年は減少傾向が続いています(図1)。

プラスチックの生産量と排出量の図

図1 プラスチックの生産量と排出量
出典:2016年プラスチック製品の生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況 マテリアルフロー(一般社団法人 プラスチック循環利用協会)

使用されたあとのプラスチックごみは、量がかさばるため廃棄物処理の大きな負担になります。また、自然環境中へ捨てられたり、散逸したりした場合、腐食しにくいためにいつまでも残ってしまうという問題があります。このため1980年代から、「生分解性プラスチック」の研究・開発が積極的に進められてきました。

生分解とは、微生物の作用によってもとの化合物がほかの物質に分解することです。生分解性プラスチックは、一般的に「使用するときには従来のプラスチック同様の性状と機能を維持しつつ、使用後は自然界の微生物などの働きによって生分解され、最終的には水と二酸化炭素に完全に分解されるプラスチック」とされています(図2)。

生分解性プラスチックの循環概念図

図2 生分解性プラスチックの循環概念図
出典:グリーンプラの特長(日本バイオプラスチック協会)

コラム:生分解性プラスチックとバイオマスプラスチック

生分解性プラスチックと混同されやすいプラスチックに「バイオマスプラスチック」があります。バイオマスプラスチックは、再生可能資源であるバイオマスを原料にするもので、化石資源に依存してきたプラスチック製造からの転換によって、CO2の排出削減と枯渇の危険性をはらむ化石資源からの脱却をねらったものです。

生分解性プラスチックが製品化後の機能に焦点を当てているのに対し、バイオマスプラスチックは製造原料の種類によって規定されます。石油系のプラスチックのなかには生分解性のものがある一方、バイオマス系のなかに非生分解性のものもあり、必ずしも両者が合致するものではありませんが、生分解性プラスチックとバイオマス系プラスチックの両者をあわせてバイオプラスチックと呼び、ともに循環型社会に適合する素材として高い関心を集めています。

2.生分解性プラスチックの種類

近年、さまざまな種類の生分解性プラスチックが開発されています。原料や製造方法の観点から、微生物産生系・天然物系・化学合成系の大きくは3つに区分することができます(表1)。

代表的な生分解性プラスチックの概要を以下に示します。

1)微生物産生系

ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)

微生物の多くは、体内にエネルギー貯蔵物質としてポリヒドロキシアルカノエート(PHA)と呼ばれるポリエステルを蓄積します。PHAはポリプロピレンに近い融点や破壊強度を持っており、PHAそのものでは脆いため、別の成分モノマーを導入したさまざまな共重合ポリエステルが開発されています。硬質射出成形品やフィルム、シートなどの原料に利用されます。

2)天然物系

セルロース誘導体

植物によってつくられるセルロースの加工性(汎用有機溶媒への可溶化、成形に適した熱可塑性)を改良した、さまざまなセルロース誘導体が開発されています。生分解性を高めるための研究が進められ、半硬質タイプの生分解性プラスチックとして実用化されたものがあります。

デンプン

トウモロコシなどの穀類やジャガイモなどのイモ類に含まれるデンプン(グルコースポリマー)は、結晶性に乏しいため、単独ではプラスチックの性質がありませんが、ほかの生分解性プラスチックとブレンドすることによってフィルムなどに製品化されています。また、デンプンに熱可塑性をもたせた変性デンプンがプラスチックの原料に使われています。

3) 化学合成系

ポリ乳酸

デンプンの発酵などによってつくられたL-乳酸を、化学重合法で合成した高分子をポリ乳酸(PLA)といい、透明性や物理特性にすぐれているため、工業用材料としてさまざまな製造技術が開発されています。各種樹脂とのアロイ(複数のポリマーを混合することで新しい特性を持たせた高分子)が、農業用シートやハウス用フィルム、食品トレイや包装用フィルム、レジ袋などで使用されています。最近では3Dプリンターのフィラメントとしても使われています。

ポリブチレンサクシネート系(PBS,PBSA)

コハク酸またはアジピン酸と、1,4-ブタンジオールからの重合によってつくられる高分子で、前者がポリブチレンサクシネート(PBS)、後者がポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)と呼ばれています。最近はコハク酸の製造をバイオマスからつくる技術が開発されています。軟質系プラスチックとして実用化されています。

ポリカプロラクトン

ε-カプロラクトンの合成によって得られた高分子をポリカプロラクトン(PCL)といい、低い融点(60℃)の熱可塑性のプラスチックとして、フィルムへの実用化が実現し、マルチフィルムやコンポスト用袋などに使われています。

ポリビニルアルコール(PVA)

ポリ酢酸ビニルを加水分解してつくられるポリビニルアルコール(PVA)は、ビニロン繊維の原料や工業用原料として従来から幅広く利用されている高分子です。テレビやパソコンモニターなどの偏光フィルムにも使われています。

その他

脂肪族ポリエステル類の生分解性プラスチックとしてはこのほか、ポリグリコール酸(PGA)や変性ポリエチレンテレフタレートなどが開発されています。


表1 生分解性プラスチック一覧 生分解性プラスチックの種類の図 注)「日本バイオプラスチック協会パンフレット」に基づいて作成

3.生分解性プラスチックの用途

生分解性プラスチックの利用は、欧米において先行しており、1980年代末以降、シャンプーボトルや食品包装、簡易食器具、キャラクター商品、コンポスト用袋などが実用化されています。EUでは、生分解プラスチックの袋を除き、使い捨てレジ袋使用の削減を義務付けており、EU各国は削減目標の設定や、レジ袋の有料化などの対策を講じています。プラスチックのリサイクルも進められており、生分解性プラスチックによるごみ袋の需要が高まっています。

日本では、農業用マルチフィルムへの利用が主流で、そのほか園芸用資材、土木工事用資材、コンポスト用ごみ袋などに利用されています。現在では各種成形に耐えられる物理・化学性状や、製品化されたときの耐熱性、耐衝撃性、難燃性などの向上によって、さまざまな用途への可能性が期待されています(表2)。


表2 生分解性プラスチックの実用化・利用の拡大が期待される分野 生分解性プラスチックの製品例の図 注)グリーンプラ(グリーンジャパン)に基づいて作成

4.普及への取組と課題

生分解性プラスチックの開発が本格化するにともなって、製造時における高分子化や成形などをめぐる技術的課題はもとより、生分解度を計測する試験法や、分解生成物の安全性の評価手法を確立することも求められました。

日本では1989年に、生分解性プラスチックに関する技術の確立、実用化の推進を目的として、樹脂メーカーや加工メーカー、最終製品メーカー、商社などによって、生分解性プラスチック研究会(現在の日本バイオプラスチック協会(JBPA))が設立され、生分解性と安全性に関する識別標準として「グリーンプラ識別表示制度」を設けました。この制度は、有害重金属類を基本的に含まず、生分解性と安全性が一定基準以上あることが確認された材料のみから構成されるプラスチック製品をグリーンプラ製品と認定し、製品にシンボルマークをつけることを許可する制度です。

グリーンプラシンボルマーク[参考URL]
グリーンプラ(生分解プラスチック)識別表示制度

日本バイオプラスチック協会 ホームページ(2019年4月閲覧)

生分解性については、製品中に含まれる1 wt%以上の全ての有機材料が、JIS(日本工業規格)やOECD(経済協力開発機構)で定められた方法で試験して、それぞれで規定された期間内に60 %以上が生分解することとされています。安全性についても、使用有機化合物は、天然有機物、食品添加物として登録されているもの、あるいは一定の安全性が確認されたものに限るとされています。

また、(公財)日本環境協会が実施するエコマーク制度においても、農林業用資材、造園・緑化用資材、コンポスト用資材として使われる生分解性プラスチック製品について、別途認定基準書を作成するなどして、エコマーク製品の品質保証と普及に努めています。

このように、認定制度を通じて生分解性プラスチックの品質の確保が図られていますが、普及についての進展はけっして順調とはいえません。これは、価格面で従来のプラスチックに比べて高価であること、物性や成形性、性能について従来品を凌駕すると評価されるものが少ないこと、コンポスト施設の整備が遅れていること、などの課題が残されていることによります。

5.最近の研究開発動向

生分解性プラスチック原材料の新たな分野の開拓として、カネカ(株)は、植物油脂等のバイオマスを主原料にして、新しい生分解性プラスチックPHBHを開発しました。日常の使用では安定でありながらも生分解性が優れ、自然環境の嫌気性・好気性いずれの条件でも短期間で分解されます。微生物体内にポリマーを蓄積させ、それを精製して取り出すというクリーンプロセスで生産されます。

一方、生分解性プラスチックの分解制御は難しく、強力な分解菌を利用した分解促進技術が望まれています。(独)農業環境技術研究所(現在の農研機構 農業環境変動研究センター)では、生分解性プラスチックを効率よく分解する微生物(酵母菌)をイネの葉の表面から発見したことを発表しました。この酵母菌(シュードザイマ属酵母)は、常温では分解されにくいポリ乳酸も常温で分解します。またオオムギからも強力な分解菌が見つかっており、今後の技術開発の基礎として期待されます。

生分解性プラスチックは、バイオマスプラスチックとあわせて循環型社会を実現するための重要な鍵を握っていますが、広く普及するには至っていません。さらなる研究開発を進めるとともに、普及に向けて社会制度を整えること、消費者の関心を高めるための広報活動を行うなどの取り組みが求められています。

引用・参考資料など

[1] 日本バイオプラスチック協会.トコトンやさしいバイオプラスチックの本,日刊工業新聞社(2009年)

[2] 日本バイオプラスチック協会.バイオプラスチック材料のすべて, 日刊工業新聞社(2008年)

[3] 日本バイオプラスチック協会.普及啓発資料「バイオマスプラスチックと生分解性プラスチックのなるほどブック」

[4] 一般社団法人プラスチック循環利用協会.2016年プラスチック製品の生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況 マテリアルフロー

[5] グリーンジャパン.資材情報「生分解プラスチック『グリーンプラ』」(2018年3月閲覧)

[6] 生分解性プラスチック研究会.入門「生分解性プラスチック技術」,オーム社(2006年)

[7] 国立研究開発法人農業環境技術研究所.研究成果「農環研が生分解性プラスチックを強力に分解する微生物をイネの葉の表面から発見

<コンテンツ改訂について>
2016年3月:初版を掲載 
2016年7月:改訂版に更新
2019年4月:改訂版に更新