アブラヤシ農園の排水路、N2O放出源・吸収源としての理解進む
発表日:2023.03.08
国立環境研究所、東京工業大学、兵庫県立大学およびマレーシア・サラワク州立熱帯泥炭研究所の研究チームは、アブラヤシ栽培のために張り巡らされた排水路の「N2O生成・除去機構」を解明した。世界的なパーム油需要の高まりを受け、東南アジア諸国ではアブラヤシ大規模農園(oil paim plantation)の面積が拡大している。近年では泥炭湿地林も開発対象とされることが多く、地下水位を下げるため、縦横に排水路を施したプランテーションが増えてきた。泥炭湿地は“炭素の貯蔵庫(別称:温暖化の火薬庫など)”と呼ばれている。排水路の整備(泥炭の乾燥)により有機物の分解が加速され、CO2の大量放出が危惧されている。他方、プランテーションにおける窒素化学肥料が施用に伴い、CO2の約300倍の温室効果を持つN2Oの放出も懸念されている。N2Oはひとたび大気放出されると安定する寿命の長いGHG。水環境中の溶存N2Oは「硝化」、あるいは「脱窒(N2分解)」によって生成し、過飽和状態になると大気に放出される。プランテーション内の排水路は農地全体の数%を占める表面積を占めている。N2O発生源として看過できないものと考えられてきたが、実観測の事例は乏しく、溶存N2Oの動態はほとんど分かっていなかった。本研究ではプランテーション排水路と隣接河川における溶存 N2O 濃度の「空間モニタリング」を実施するとともに、「分子内同位体比(アイソトポマー)分析」を行うことで、排水路中における窒素プロセスの解明に迫っている(調査地:マレーシア・サラワク州、調査シーズン:乾季・雨季)。空間モニタリングの結果から、排水路水中の溶存N2O濃度は雨季と乾季で空間分布が大きく異なり、強い発生源となっている地点が見られる一方で、強い吸収源となる地点も多いことが明らかになった。アイソトポマー分析の結果から、N2OのほとんどはN2まで還元されており、かなりの部分が河川に至るまでに除去されていることが確認された。これは泥炭土壌から供給される有機物が多いために起こるものと考えられた。総じて、泥炭湿地上に成立したプランテーションの排水路はN2Oの発生源であることが明確となり、新たに、排水に溶存し“間接的に大気に排出されるN2Oの抑制効果”を有する可能性が示唆された。熱帯泥炭湿地帯における溶存N2O動態を初めて観測した事例であり、GHG発生抑制に向けたN2O生成メカニズム解明につながる新知見となっている(掲載誌:Science of the Total Environment)。