熱帯雨林樹木の体細胞変異数はコンスタントに増え続ける!九大・佐竹教授らの新アプローチ
発表日:2023.06.07
九州大学大学院理学研究院の佐竹教授を中心とする共同研究グループは、樹齢 300 年を超える熱帯雨林樹木の体細胞変異数が成長量ではなく、絶対時間に依存して蓄積することを発見した。熱帯雨林は“生物多様性の宝庫”とも言われ、優占する樹木の突然変異は地球全体の遺伝的多様性に貢献している。しかし、熱帯雨林の生物現象は多くの謎に包まれており、とりわけ突然変異の発生メカニズムに関する知見は極めて乏しかった。同教授は、一斉開花が生じる仕組みをはじめ、生物現象の“タイミング”に着目した調査研究に注力し、生態学・分子生物学に「数理生物学」を組み込んだ統合的アプローチを進めている。今回、“進化の原動力である突然変異が自然条件でどのように生じるかを明らかにすることは、生命科学の重要課題の一つ”との視座から、ボルネオ島のShorea属の長寿命樹木を対象とする研究をデザインした。成長速度の異なる2種の樹木を対象に、体細胞変異の分析を進めた結果、いずれの種も枝の伸長とともに体細胞変異の数は直線的な増加を示すことが判明した。枝が1m伸びる際に生じる体細胞突然変異率を推定したところ、成長が遅いS. laevisでは、成長の早いS. leprosulaよりも3.7倍高い変異率が見られた。他方、年あたりに生じる突然変異率については、成長速度に依存せず種間で一定であることが示唆された。これは、体細胞突然変異が枝の伸長(成長)に伴う細胞分裂ではなく、絶対時間に依存して蓄積することを表している。さらに、新しく生じた突然変異が自然選択を受けているかどうかを調べたところ、体細胞変異は個体内ではほぼ中立であるが、次世代に受け継がれる変異は強い負の自然選択を受けるという結果が得られた。突然変異の発生メカニズムに関する理解深化を通じ、熱帯における生物多様性保全への貢献が期待できる、と結んでいる(論文の公開先: https://elifesciences.org/reviewed-preprints/88456)。
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