森林限界と南限のダケカンバ、脆弱性と根底要因の理解深まる
発表日:2023.11.10
筑波大学と東京大学を中心とする研究グループは、自然分布域の端に生育するダケカンバは成長能力が低く、異なるメカニズムによって脆弱化していることを実証した。ダケカンバはロシア東部や東アジアの寒冷地に分布する落葉性高木。日本では北海道・本州・四国の亜高山帯や森林限界(標高:2,000~3,000 m)付近に広く分布している。同種のみならず、すべて種は“有限の地理的範囲(以下「範囲」)”を持っている。範囲を巡っては、生態的地位や生物進化の2大メカニズム(自然選択/遺伝子浮動)の関与など、さまざまな制限要因の存在が指摘されている。一方、個体群の成長能力は中心部から端に近づくにつれて低下し、小集団化するといった観察結果も報告されており、近年では範囲端個体群の成長能力評価によるアプローチが盛んに進められている。本研究では、現時点ではより多くの事例を積み上げることが重要といった視座から独創的な「産地試験」を設計し、範囲の制限要因解明に迫っている。同試験は、国内11カ所のダケカンバ苗木を全国8カ所に移植して、それらの生存率や成長能力と気候特性・遺伝的特性との関連を比較検証するというもの。一連の調査を通じて、中央アルプス(森林限界)の集団は気候条件に適応したものであることが確認され、紀伊半島(分布南限地に相当)の集団は遺伝的多様性が著しく低く、他集団と遺伝的な距離が遠いことが明らかになった。さらに、両集団は共に生存率や樹高が低く、紀伊半島の集団は生存率等に加え、成長率も低いことが分かった。これらの新知見は①森林限界では低温環境下の短い生育期間に適応し、他環境では不利な小さな個体サイズが「選択」されたこと、一方、②南限地では小集団化や他集団からの隔離に伴う「遺伝的浮動・近親交配」によって有害遺伝子が蓄積して生存率・成長率が低下したことを示唆している。範囲端個体群は総じて脆弱であり、地球温暖化の進行に伴い消失する可能性が高いため、早急に保全策を講ずる必要がある、と提言している(掲載誌:Heredity、DOI:10.1038/s41437-023-00655-0)。
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