海洋沈降粒子アーカイブ試料が示す、深海底プラごみに対する黒潮続流の関与
発表日:2024.08.26
海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、房総半島沖の深海底に着底する前のマイクロプラスチック(MPs)を実際に観測することに成功した。同海域は黒潮続流・再循環域に位置し、西部北太平洋における海洋表層の循環において重要な役割を果たしている。気候変動の理解にも欠かせない海域であるため、米国海洋大気庁-太平洋海洋環境研究所(NOAA-PMEL)が表層ブイを設置し、海上気象、表層付近のCO2濃度、水温、塩分データなどを継続的に取得している観測点(以下「KEO」)でもある。近年、KEO周辺の深海底にMPsやマクロプラスチックごみが大量に集積していることが明らかになり、沈降過程にあるMPsの定量的把握が喫緊の課題となっていた。今回、JAMSTECはKEOで採取された「海洋沈降粒子アーカイブ試料」を用いて詳細な分析を行った。この試料は2014年から2016年にかけて、深海4,900 mに設置されたセジメント・トラップで18~21日ごとに収集されたものである。分析の結果、すべての試料からMPsが検出され、その90%が100 µm以下のサイズであることが判明した。観測期間中、1平方mあたりのMPs沈降量は個数ベースで111~889個の範囲で変動し、平均値は352個であった。質量ベースでは、MPs沈降量は4.5×10-3から3.8×10-1 mgの範囲で変動し、平均値は5.4×10-2 mgであった。また、これらのデータを用いたコンピューターシミュレーションの結果、黒潮続流・再循環域全体で年間約2.8万トンのMPsが深海に沈降していると推定された。1960年代以降、世界の海洋に蓄積されたプラスチックごみの総量は約2,530万トンと推定されており、そのうち1,688万トンが外洋に沈んでいる。したがって、本研究で推定された黒潮続流・再循環域のMPs沈降量は、この沈降量の約3.4%を占めることになる。さらに、マーチンカーブを用いて沈降量を計算した結果、KEO観測点での沈降量は大西洋亜熱帯循環域での観測結果と同程度であり、MPsの沈降は表層での一次生産の増加と強く関連していることが明らかになった。MPsが「黒潮によって長距離を輸送され、黒潮続流・再循環域内の深海底に蓄積するプロセス」の規模や、海洋生態系に対する影響の一端を裏付ける成果となった(DOI: 10.1021/acs.est.4c02212)。
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