温暖化1.5℃で氷河保存率が2倍に─名大を含む国際研究チームの定量評価
発表日:2025.05.27
名古屋大学大学院環境学研究科の藤田教授と坂井准教授が参加する国際研究チームは、世界の氷河の将来的な消失リスクを、8つの氷河モデルを用いて定量的に評価した。研究成果は、2025年5月30日付の科学誌『Science』に掲載された。
本研究では、南極氷床およびグリーンランド氷床を除く20万以上の氷河を対象に、地球温暖化の進行度合いに応じた氷河の質量減少を予測した。気温が現在の水準(産業革命前比+1.2℃)で安定したとしても、最終的に世界の氷河の39%が消滅し、海面上昇に10cm以上寄与することが明らかとなった。さらに、気温が0.1℃上昇するごとに、氷河の約2%が失われると推定された。
現在の気候政策が想定する+2.7℃の温暖化が進行した場合、氷河はわずか24%しか残らない。一方、パリ協定が掲げる+1.5℃の目標を達成すれば、残存率は54%に倍増する。これは、気候政策の選択が氷河の将来に決定的な影響を与えることを示している。
氷河は温暖化が止まっても数十年から数世紀にわたり融解を続ける。これは、氷河が高地に後退し、新たな気候条件下で安定状態に達するまでに長い時間を要するためである。また、氷河の損失速度や残存量は地域ごとに異なり、地形の傾斜や標高幅が大きく影響することも判明した。
研究チームは、氷河の消失が淡水資源の枯渇、災害リスクの増大、観光産業への打撃など、社会・経済・環境に広範な影響を及ぼすと指摘している。今回の成果は、2025年の「国連国際氷河保存年」における重要な科学的貢献であり、世界的な気候変動対策の緊急性を改めて浮き彫りにするものである。本研究は、世界気候研究計画(WCRP)の氷河モデル相互比較プロジェクト(GlacierMIP)の一環として実施された。
▲ページ先頭へ
新着情報メール配信サービス
RSS