海洋大、黒潮渦がつなぐ“見えない栄養”の連鎖を初観測
発表日:2025.07.02
東京海洋大学の研究グループは、屋久島南方の黒潮海域において、反時計回りの冷水渦が生成され、その周辺で栄養塩が舌状に湧昇する様子を捉えることに、初めて成功した。この成果は、黒潮表層が貧栄養であるにもかかわらず、下流域で高い生物生産が維持されている仕組みの一端を明らかにするものである(掲載誌:Scientific Reports)。
黒潮は北太平洋の西岸境界流として、日本南岸を北上しながら熱と物質を輸送するが、その表層は栄養塩に乏しい。一方、亜表層には豊富な栄養塩が存在し、黒潮によって下流へ運ばれる「栄養塩ストリーム」が形成されている。研究グループは、自由落下曳航式プロファイラーを用いた高解像度観測と数値シミュレーションにより、屋久島南方で生成された冷水渦の東側で発散流が発生し、硝酸塩が舌状に湧昇する現象を確認した。――シミュレーションでは、供給された栄養塩が小型植物プランクトンに消費されるが、すぐに小型動物プランクトンに捕食されるため、植物プランクトンの増殖は限定的であり、栄養塩の多くが消費されずに黒潮に乗って下流へ運ばれることが示された。これは、黒潮下流域の生物生産を支える重要なメカニズムである可能性がある。
本研究は、これまでシミュレーションでしか示されていなかった渦縁辺の栄養塩湧昇を実観測した世界初の成果であり、今後は、動物プランクトンや有機炭素の沈降量の観測を通じて、黒潮による物質輸送と生態系応答の全体像に迫る研究の進展が期待される。