地震の崩壊堆積物が水質形成に影響―生態系保全に資する新知見
発表日:2025.08.04
産業技術総合研究所(産総研)は、2018年に発生した北海道胆振東部地震による表層崩壊が、山地流域の河川水質および微生物コミュニティーに与えた影響を明らかにした(掲載誌:Journal of Hydrology)。
本研究は、北海道厚真町・安平町の山間部において、崩壊面積率の異なる流域を対象に水質分析と環境DNA解析を組み合わせて実施された。地震により発生した6,000以上の表層崩壊は、火山性土壌を谷底に堆積させ、地下水で飽和した還元的環境を形成した。本調査により、崩壊堆積物を通過した湧水は、酸素濃度が低く、アンモニウムイオン(NH₄⁺)、マンガンイオン(Mn²⁺)、鉄イオン(Fe²⁺)などの還元性イオン濃度が高い一方、硝酸イオン(NO₃⁻)、硫酸イオン(SO₄²⁻)の濃度は低下していたことが明らかになった。これらの水質変化は、崩壊面積率の高い流域の河川水にも反映されており、t-SNE法による解析では湧水と河川水の水質が類似していることが示された。一方、微生物解析では、嫌気的環境に適応した微生物群が崩壊堆積物および河川水から多く検出され、脱窒や硫酸還元、金属還元などの酸化還元反応が活発に進行していることが示唆された。これらの反応は、堆積物中の有機物の酸化と連動しており、微生物が水質形成に関与していることが明らかとなった。
本研究は、表層崩壊が水資源の質的安全性や微生物生態系に与える影響を科学的に示した初の事例であり、土砂災害のリスク評価に加え、水資源管理や生態系保全の観点からも重要な知見を提供するものである。今後は、崩壊堆積物内で進行する微生物活動の詳細や、酸化還元反応以外の水質形成プロセスとの関連性を解明し、国内外の山間部における環境管理に資する情報の拡充を目指すという。