環境技術解説

コンバインドサイクル発電

従来の方式による火力発電はCO2排出量が多いことから、今後、火力発電を行う際には、より効率よく電気を作り、化石燃料の使用量を減らすことが求められています。コンバインドサイクル発電は、ガスタービンによる発電とスチームタービンによる発電を組み合わせることにより高効率化を実現しました。



図1 横浜火力発電所付近を京浜運河から眺める

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1.火力発電所の高効率化に向けて

化石燃料を使用する火力発電はCO2の排出量が多いことから、その発生を抑制することが大きな課題となっています。解決策の1つは、効率よく電気を作り、化石燃料の使用量を減らすことです。

図2

図2 火力発電の平均効率
出典:International comparison of fossil power efficiency and CO2 intensity - Update 2013

図2は各国の火力発電の発電効率(熱効率)の推移です。日本では、オイルショックを受け、1980年に「旧・代エネ指針における扱い」が策定され、天然ガスや石炭による発電が促進されてきました。1984年には、天然ガスを燃料とするコンバインドサイクル発電を採用した東新潟火力発電所3号系列(東北電力)が運転を開始し、当時としては世界最高の44%を超える高い熱効率を達成しました。こうした取り組みはその後も続けられ、日本の火力発電所の熱効率は世界でも最高の水準を維持しています。


2.コンバインドサイクル発電とは

火力発電には、大きく2つの方式があります。燃料を燃やして水を沸騰させ、発生した蒸気により発電機(スチームタービン)を回す方式と、燃料を燃やして発生させた高温・高圧の燃焼ガスにより発電機(ガスタービン)を回す方式です。これらの方式の弱点は、いずれもタービンを回した後の蒸気や燃焼ガスが持つ熱が捨てられてしまうことです。この捨てられる熱を減らす技術が「コンバインドサイクル発電」です。コンバインドサイクル発電は、ガスタービンによる発電とスチームタービンによる発電を組み合わせた発電方式で、ガスタービンコンバインドサイクル発電とも呼ばれています。

図3

図3 コンバインドサイクル発電のしくみ
電気工学ハンドブックを参考に作成


図3は、コンバインドサイクル発電の一例です。圧縮空気の中で天然ガスなどの燃料を燃やして高温・高圧のガスを発生させ、その圧力でガスタービンを回して発電します。ガスタービンを回し終えた後の排ガスはまだ熱を持っているので、この熱を利用して排熱回収ボイラーで蒸気を発生させ、スチームタービンを回して2回目の発電をします。

このように、2つの発電方式を組み合わせることで捨てられる熱を減らし、効率よく電気を作る仕組みになります。コンバインドサイクル発電の中でも、ガスタービン入口のガス温度が1,500℃級のMACC発電(More Advanced Combined Cycle)の熱効率は約59%で、従来型の火力発電の40%強を大きく上回っています。また、化石燃料の使用量を減らすことができ、CO2排出量の抑制も期待されています。


3.コンバインドサイクル発電の構成

コンバインドサイクル発電の構成は、ガスタービンとスチームタービンの組み合わせにより一軸形と多軸形の2つの形式に分けられます。

3.1 一軸形

一軸形は、ガスタービン、スチームタービン、発電機の軸を一直線に並べた構成を1つのユニットとします。発電機が1台だけなので設備全体をコンパクトにできます。一般に、ユニットを複数台並べて構成されます。ユニットごとに独立した運用ができるため、運転台数の増減で出力を増減することができ、広い出力範囲にわたって定格出力(指定条件下で安全に達成できる最高出力)と同等の高い熱効率を得ることができます。

図4

図4 一軸形の構成例
現代電力技術便覧を参考に作成


3.2 多軸形

多軸形は、ガスタービンとスチームタービンの軸が分かれていて、ガスタービンとスチームタービンそれぞれに発電機が設置されます。複数台のガスタービン発電機にスチームタービン発電機1台を組み合わせることでスチームタービンの容量を大きくすることができ、高い熱効率を得ることができます。

図5

図5 多軸形の構成例
現代電力技術便覧を参考に作成


4.コンバインドサイクル発電の特徴

4.1 熱効率が高い

コンバインドサイクル発電の熱効率は、ガスタービンへの導入温度が1300℃級で約55%、1500℃級で約59%に達しています。図5はガスタービンへの導入温度が1500℃のコンバインドサイクル発電の熱精算図です。ガスタービンでは61%が排熱になりますが、20%がスチームタービンで回収されるため、ガスタービンからの39%と合わせ、全体の熱効率は59%に向上し、従来型の火力発電における40%強を大きく上まわっています。

図6

図6 1500℃級コンバインドサイクル発電の熱精算図
電気工学ハンドブックを参考に作成


4.2 起動・停止時間が短い

コンバインドサイクル発電設備は、急速起動が可能なガスタービンと小型のスチームタービンの組み合わせで構成されているので短時間での起動・停止が可能であり、電力需要にもすばやく対応することができます。起動から定格出力に達するまでの時間を同じ1000 MW級で比較した場合、従来型のスチームタービンのみの火力発電の約3時間に対し、コンバインドサイクル発電では約1時間です。


4.3 温排水量が少ない

スチームタービンを回すために使われた蒸気は、海水を使って冷やされ、水に戻ります。蒸気を冷やした後の海水は、取水時よりも水温が上昇した状態で海に戻されることから、温排水と呼ばれています。スチームタービンのみの火力発電では、燃料を燃やして得られる熱の80~90%が蒸気になりますが、コンバインドサイクル発電では50%程度しか蒸気になりません。出力が同じスチームタービンのみの火力発電と比較すると、コンバインドサイクル発電の温排水量は5~6割程度になります。


5.石炭ガス化複合発電

燃料に石炭を用いた技術開発も続けられています。固体の石炭は、そのままではガスタービンで燃焼することができません。石炭ガス化複合発電(IGCC: Integrated coal Gasification Combined Cycle)は、石炭をガス化し、コンバインドサイクル発電技術を利用して発電する方式です。石炭をガス化炉内で加圧し、高温で一酸化炭素と水素を主成分とする可燃性ガスを生成し燃料として利用します。IGCCは、ガス化プロセスに必要な酸素と窒素を作るために空気分離設備が必要なため、その熱効率は天然ガスなどを燃料とするコンバインドサイクル発電には及ばないものの、従来のスチームタービンを用いる発電方式よりも熱効率が高く、従来の石炭火力発電に比べCO2の排出量も削減されます。また、ガス精製過程で窒素化合物、硫黄化合物、ダストを除去できるため、NOx、SOx、ばいじんの排出量を削減できます。

IGCCのガス化炉には、空気中の酸素を利用する空気吹き方式と、高純度の酸素を利用する酸素吹き方式があります。IGCCは国内外で開発が進められており、日本国内では2013年3月まで実証機で試験が実施され、その後は実用プラントとして運転されています。図7にIGCCの構成例を示します。

図7

図7 石炭ガス化複合発電(IGCC)の構成例
出典:科学技術動向2004年11月号


6.今後の展開

コンバインドサイクル発電の効率の向上には、ガスタービン入口のガス温度を上昇させることが有効です。耐熱合金やセラミックスなどの材料開発、タービン翼の冷却方式の開発などにより、1600℃級の発電設備の建設が進められ、さらに1700℃以上の高温での運転を可能にする技術革新が進行中です。

さらに、スチームタービンを用いずにコンバインドサイクル発電と同等の効率をもつ、高湿分空気利用ガスタービン発電(AHAT:Advanced Humid Air Turbin)、トリプルコンバインドサイクル発電、石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC:Integrated coal Gasification Fuel cell Combined cycle)の開発も進められています。トリプルコンバインドサイクル発電は、燃料電池、ガスタービン、スチームタービンを組み合わせた発電方式です。また、IGFCは石炭をガス化し、トリプルコンバインドサイクル発電技術を利用して発電する方式です。これらの新技術は、安価で高効率な燃料電池の開発などの課題が残るものの、実用化に向けた開発が進んでいます。




参考文献

・Paul Noothout, Joris Koornneef, David de Jager and Erik Klaassen. "International comparison of fossil power efficiency and CO2 intensity - Update 2013". Ecofys, 2013, CESNL14003, 74p.

・石油連盟「わが国における「石油火力発電」の扱いと石油業界の考え方について」

・三菱重工「コンバインドサイクル発電プラント」

・電気学会編「電気工学ハンドブック(第7版)」オーム社(2013)

・電気科学技術奨励会編「現代電力技術便覧(第1版)」オーム社(2007)

池田忠司, 武田淳一郎, 山本隆夫「コンバイドサイクル発電設備」富士時報(2005)

・大平竜也「石炭利用・クリーン化技術の最新動向と今後の展望―クリーンコールテクノロジーに注目して―」科学技術動向(2004)

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2014年10月:初版を掲載