環境技術解説

グリーンIT/IoT

グリーンITとは、情報技術(IT)を用いて脱炭素社会構築に向けて社会や企業の環境負荷低減につなげる技術のことをいい、「情報システムそのものの環境負荷低減」と「情報システムによる環境負荷低減」の二つの側面がある。

具体的には、IT(情報技術)/IoT(Internet of Things)のインフラ全体を省エネ化することによってIT/IoT技術の消費電力量増加を抑えつつ、同時に、IT/IoTを活用して電気機器の運用を調整する。生産や流通、業務など社会活動のさまざまな側面で稼動している設備の利用の効率化を図り、エネルギー消費の削減や地球温暖化対策につながることが期待される。

※掲載内容は2021年11月時点の情報に基づいております。
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1.グリーンIT/IoTをめぐる背景

電力需要は景気の動向や政治・社会の動向に左右されるが、経済成長や情報化社会の進展などを背景に増加を続け、エネルギー消費量全体に占める電力消費量の割合(電力化率)は40%以上を占めるまで高まった(図1)。

近年は節電への取り組みなどにより伸びは鈍化しているが、生活水準の向上や、快適な生活を求めるなかで、冷暖房をはじめとした生活における電化機器の普及はますます進み、コンピュータや通信などIT革新による高度情報化社会が進展することもあいまって、産業、生活のあらゆる側面で、電気の役割はますます増している。このようなことから、電気を効率的に利用するための取組は、地球資源の枯渇ばかりでなく、地球環境問題、特に温室効果ガスの削減にとってますます重要になっている。



図1 一次エネルギー(石炭・石油・天然ガス・水力・原子力など)に占める電力の比率(電力化率)
出典:日本原子力文化財団「エネ百科」


1979年に制定された省エネ法(エネルギーの使用の合理化に関する法律)では、工場等、輸送、住宅・建築物、機械器具等の4分野において省エネ対策を定めている。

エネルギーを消費する機械器具については、市場で商品化されている製品のうち最も省エネ性能が優れている機器の性能を省エネ基準として設定するトップランナー制度が採用されており、32の機器が対象とされている。IT機器に関しては、電子計算機(パソコンとサーバー)、磁気ディスク装置に加え、ルーティング機器、スイッチング機器といったネットワーク機器が制度の対象に指定されている(表1)。


表1トップランナー制度の対象となっている機器


出典:資源エネルギー庁「機器・建材トップランナー制度について」より作成


IT技術の発展により、急激な情報化が進む中で、IT関連の機器(サーバ、ネットワーク機器等)の電力消費量の増大が懸念されたことから、2008年に経済産業省のイニシアティブの下で、7つのIT関連団体が「グリーンIT推進協議会」を設立し、グリーンITの推進とITによる二酸化炭素削減を推進する事業を国内外で展開した。グリーンITは世界的にも急速に注目を集めた取組であったが、情報技術の進歩は著しく、近年はIoT(Internet of Things)を活用した照明や家電の省エネ、生産や流通などの効率化の取り組みが進んでいる。なお、IoTはセンサーやデバイスなどの「モノ」がインターネットを通じてクラウドやサーバに接続され、情報交換することにより相互に制御する仕組みをいう。


2.目指すべき未来社会に向けて

内閣府の総合科学技術・イノベーション会議が定めた「第5期科学技術基本計画」では、これまでの情報社会をSociety 4.0と定義し、その次のステージである「Society(ソサエティ)5.0」が目指すべき未来の姿として提唱された。Society 5.0とは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(ソサエティ)のこと。

これまでの情報社会では知識や情報が共有されず、分野横断的な連携が不十分であることが課題とされていた。Society 5.0で実現する社会は、IoTで全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、さまざまな課題を克服しようというものであるという。



図2 Society 5.0のイメージ
出典:内閣府 Society 5.0


一方、NTTグループが2040年にカーボンニュートラルを達成するビジョンを提示するなど、IT関連企業が事業活動に伴う環境負荷を低減することを掲げている。

環境負荷の低減に対しても、新しい技術を個別に開発や導入するだけでなく、エネルギーの生産や流通、消費を互いにネットワーク化し、システム全体を最適化することで課題を解決することが目指されている。


3.環境負荷を低減するIT/IoT

環境負荷を低減するIT/IoTについて、情報システムそのものに係る技術と、情報システムを活用した技術を紹介する。

1)情報システムそのものの環境負荷低減技術

科学技術振興機構(JST)低炭素社会戦略センターの報告によると、2018年のデータセンターの消費電力は国内14 TWh、世界では190 TWhと推定された。さらに、現在の計算負荷の増大傾向が将来にわたって継続し、現在入手可能な最新機器を用いたと仮定したとき(将来の技術進歩は織り込まない)、2030年に国内で90 TWh、世界で3,000 TWh、2050年に 国内は12,000 TWh、世界で500,000 TWhの電力が消費されるという。地球温暖化対策計画やエネルギー基本計画においても電力消費量は現状の1.5倍程度になっていることからも、情報システムそのものの環境負荷低減は急務であるといえる。

現在、電源装置の高効率化、使用電力の制御などによるIT機器の消費電力の抑制、冷却効率の向上、クライアントPC(ディスプレイ・筐体)の消費電力の抑制、ネットワーク部分の消費電力の抑制などのITインフラの省エネ技術はかなり進んでいる。また、こうした技術開発に加え、一つのサーバ内にあたかも複数のPCが存在しているかのような制御技術(仮想化技術)によりサーバ稼働率を効率化する取組も進められている。

仮想化技術は近年さらに発展を見せ、クラウドとしてのサービス提供が進んでいる。クラウドサービスは、サーバやPCをデータセンターにまとめて設置し、ユーザはインターネットを通じてアクセスすることで必要なサービス(PC作業等)の提供を受けることができる。データセンターは、機器の利用効率を高めることができるほか、コンピュータがまとまっているために空調の効率性も高まり、省エネルギーの面でも利点がある。このため、企業などが、現在は社内等で独自に運用している情報システムを社外のクラウドサービスに移行することで社会全体としての省エネが期待される。東京都では、中小企業のクラウド化を支援する事業を行っている。

前述のとおり、利用者が増えればデータセンターでのエネルギー消費量も増大するため、積極的な省エネへの取組が進められている。図3には大成建設(株)が開発した超高集積・高発熱サーバに対応する液浸冷却システムの構成図を示した。従来は、空気による冷却方式(空冷方式)によるデータセンターの冷却が行われていたが、高度な情報処理に対応するためには、一層のスペースの増大と空調エネルギーの増加を招くため、液体の持つ熱搬送能力に着目した液浸冷却システムが提案された。このような取組のほか、デバイスの省電力化はもちろん、データセンターの室温状況を「見える化」する気流シミュレーションなどの技術など、データセンター内のエネルギー利用効率の改善が図られている。



図3 液浸冷却システムの構成図
出典:大成建設(株) What‘s New(2020年7月14日)


2)情報システムによる環境負荷低減

技術の進歩によりITソリューション(ITを活用した課題解決)は、IoTを活用したソリューションへと進化している。これまで、インターネットに接続していたのはコンピュータなどのIT機器が中心であった。IoTでは、製造・オフィス・家庭などに設置されたセンサー等の電子デバイスや制御機器などが幅広くインターネットに接続され、相互の情報共有を促進することで新たな価値を生み出すことになる(図4)。

すでに、製造業や物流、農業、インフラ、ヘルスケアなどの多くの分野で新しいIoTソリューションが登場している。このようなIoTソリューションによる効率化は環境負荷の低減につながると考えられ、次章でその例を紹介する。


4.IoTソリューションの活用事例

1)グリーン物流

運輸部門の最終エネルギー消費量は産業部門に次いで多く、運輸部門の省エネ化を図ることが重要とされている(物流における二酸化炭素削減については、「グリーン物流」の解説も参考にされたい)。

例えば、AI(人工知能)やIoT等を活用して共通システム上のデータと無人搬送機や自動配送ロボット等を連携させることで、大量の貨物を効率的に処理し、省エネ化や生産性向上が期待される。福井県越前町は、環境省と国土交通省「令和2年度二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(社会変革と物流脱炭素化を同時実現する先進技術導入促進事業)のうち過疎地域等における無人航空機を活用した物流実用化事業」において、二酸化炭素排出量削減と、地域社会と協働した持続可能な物流システム構築の検討を目的とし、ドローン物流実用化のための実証実験を実施している(図4)。



また、輸送に係る走行経路のデータをIoTで収集し、分析と学習等を行い、その結果に基づいて最適な走行経路を見出すことにより、 距離が短縮されたり、渋滞が回避されたりして、輸送に関わるエネルギーが削減される。

他にも、気象ビッグデータに基づき当日の気象・海流に合わせた最適な航路を選択すること、流通・消費のビッグデータを IoT に基づき需要予測の精度を向上させることができる。



図5 物流におけるIoTの活動領域
出典:グリーンIT推進委員会「 IoT活用によるグリーン貢献に関する調査研究報告書 ~ 第一次報告 物流・農業」


2)食品ロス対策

流通・消費のビッグデータを IoT で収集し、分析と学習等を行い、その結果に基づいて需要予測の精度を向上させることにより、供給のムダが減り、廃棄が削減される。また、冷凍輸送車内の温度データをIoTで収集し、分析と学習等を行い、その結果に基づいて高度な管理を行うことにより、輸送品の品質維持能力が向上し、廃棄が削減される。

経済産業省は、令和2年度「流通・物流の効率化・付加価値創出に係る基盤構築事業」において、IoT技術を活用したスーパーマーケットにおける食品ロス削減事業を実施した。産地の出荷から、消費者までの一連のサプライチェーン上の情報を、食品情報追跡管理システムにて管理し、消費者はスマホアプリで家庭内での食品在庫や食品ごとの採れたて度や消費/廃棄量の確認ができる仕組みが実証事業であるという。



図6 家庭内での食品在庫の可視化
出典:経済産業省消費・流通政策課「IoT技術を活用したスーパーマーケットにおける食品ロス削減事業 実証実験概要」(令和3年1月)


3)スマート農業

農作物の生育データをIoT で収集し、分析と学習等を行い、その結果に基づいて高度な管理を行うことにより、作物の品質が安定し、廃棄が削減される。

(株)ウェザーニューズは、風向・風速・雨量など全8要素を1分毎に観測したデータセットを法人向けに販売している。既に、自立走行型ロボットを活用した効率的な農作業に取り組む(株)レグミンで試験導入され、農薬散布の可否判断などに用いられている。



図7 圃場に設置されたIoTセンサー
出典:(株)ウェザーニューズ ニュース(2020年9月17日)


5.次世代インフラの技術

IT/IoTを活用した次世代技術には、ビッグデータ、AI、ロボットなどがあげられる。これらの技術は、全ての産業で共通する基盤技術であり、さまざまな技術と組み合わせることで設備利用の効率化や省エネ、二酸化炭素の削減や環境負荷の低減がますます進むと考えられている。

IoTやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の進展とともに、社会のデータは増え続けている。これらのデータは単に日々増加するだけでなく、動画、写真、テキスト、ログなど様々な種類や形式が含まれ、巨大なだけではなく複雑性も持つ。このようなデータはビッグデータと呼ばれ、ソフトウェアとハードウェア両面が進化することで、これまでは十分に活用されていなかったビッグデータを解析することができるようになってきており、今後有用な知見や新たなしくみが生まれることが期待されている。この膨大なデータの解析にはAIも活用でき、そこから生まれた知見やしくみの実行にはロボットが貢献するとされている。

たとえば、家庭内機器のIoTやAIの進化により、電力使用量を見える化(ライフログ化)し、負荷の制御を一層きめ細かく行うことで、電力消費量の最適化を実現することができる。それにより住宅内や施設内でのエネルギー管理ではなく、複数の住宅や施設を連携させたコミュニティ単位で総合的にエネルギー需給管理を行うスマートコミュニティの実現を後押しすることが可能となる(詳細は「BEMS」、「HEMS」の解説を参考にされたい)。

東日本大震災以降、太陽光発電や自家発電などの小規模発電所、蓄電池など分散型エネルギーリソースが普及している。特に太陽光発電は、天候や時間帯で発電量の変動が大きいとされ、供給側の調整も必要になっている。供給側の調整に、前述の需要家側で需給調整することで電力供給側の調整に活用するしくみ(エネルギーリソースアグリゲーション)を加え、社会全体で効率的なエネルギー利用のためのしくみが広がっていくことも期待される。この仕組みは、あたかも一つの発電所のように機能することから、VPP(仮想発電所:バーチャルパワープラント)と呼ばれている。



図8 VPPのイメージ
出典:経済産業省「VPP・DRとは」


情報通信技術は日々進歩を続けており、新たな技術が今後も続々と登場、発展し続けるに違いない。このようなIT/IoT技術を活用することで、さらなるエネルギー消費の削減や地球温暖化対策につなげることが期待される。


引用・参考資料など

・環境省 報道発表資料(令和3年10月22日)「地球温暖化対策計画」及び「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」の閣議決定並びに「日本のNDC(国が決定する貢献)」の地球温暖化対策推進本部決定について

・環境省 報道発表資料(令和3年10月22日)気候変動適応計画の閣議決定及び意見募集(パブリックコメント)の結果について

・内閣府「第5期科学技術基本計画」

・内閣府 「Society(ソサエティ)5.0」

・国土交通省「過疎地域におけるドローン物流ビジネス検討会用資料」(2021年5月27日)

・経済産業省「VPP・DRとは」

・経済産業省消費・流通政策課「IoT技術を活用したスーパーマーケットにおける食品ロス削減事業 実証実験概要」(令和3年1月)

・資源エネルギー庁「機器・建材トップランナー制度について」

・資源エネルギー庁「2020年頃に向けた新たなエネルギーシステムの構築」

・電気事業連合会「日本の電力消費」

・電子情報技術産業協会「環境部会ホームページ」

・電機・電子温暖化対策連絡会「電機・電子業界の温暖化対策」

・日本原子力文化財団「エネ百科」

・科学技術振興機構 低炭素社会戦略センター 「低炭素社会の実現に向けた技術および経済・社会の定量的シナリオに基づくイノベーション政策立案のための提案書 情報化社会の進展がエネルギー消費に与える影響(Vol.2)」(令和3年2月)

・グリーンIT推進委員会「IoT活用によるグリーン貢献に関する調査研究報告書 ~ 第一次報告 物流・農業 」

大成建設(株) What‘s New(2020年7月14日)

(株)ウェザーニューズ ニュース(2020年9月17日)

NTTグループ ニュースリリース(2021年9月28日)


<コンテンツ改訂について>
2009年1月:初版を掲載 
2021年11月:改訂版に更新