環境技術解説

ビルエネルギーマネジメントシステム(BEMS)

BEMS(Building and Energy Management System、日本語では「ベムス」と読まれる)とは、「ビル・エネルギー管理システム」と訳され、室内環境とエネルギー性能の最適化を図るためのビル管理システムを指す。先行していた産業界のFA (ファクトリー・オートメーション、Factory Automation) の対語として、BA(ビル・オートメーション、Building Automation) と呼ばれることもある。

BEMSは、ITを利用して業務用ビルの照明や空調などを制御し、最適なエネルギー管理を行うもので、要素技術としては、図に示すような人や温度のセンサーと制御装置を組み合わせたものである。

業務用ビルからのCO2排出は日本のCO2排出の1割程度を占めており、今後も増加が予想されることから、BEMSの導入は温暖化に対する有効な対策である。BEMSは低炭素社会をつくるために不可欠な技術として多くのビルへの採用が期待され、各種のCO2排出量削減シナリオにも取り上げられている。例えば、2007年5月に安倍首相(当時)が発表したクールアース50では、世界全体の温室効果ガスを2050年までに半減することを目標としているが、それを具体化するための「Cool Earth -エネルギー革新技術計画」(2008年3月,経産省)の中にもBEMSが取り上げられている。

図1 BEMS概要
出典:環境省「トップランナー機器への買い替え」

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1.背景

1)業務用ビルからのCO排出量

我が国において、京都議定書の基準年である1990年の業務用ビルのCO2排出量は全体の11.4%を占めており(図2)、かつ今後も排出量の増加が予想されていることから、業務用ビルのエネルギー使用を効率化し、省エネルギーを進めることが緊急の課題となっている。

図2 日本のCO2排出量の割合(1990年)
出典:環境省学校エコ改修と環境教育事業(ecoflow)ウェブサイト「事業紹介」


2)BEMSへのニーズの高まり

BEMSは、Building and Energy Management System(ビル・エネルギー管理システム)のことで、室内環境とエネルギー性能の最適化を図るためのビル管理システムを指す。BEMSは、BMS(Building Management System)というビル監視システムをベースとして、これにITを組み込んで発展したものである。現在では多くの建設会社やビル管理会社、そして電機メーカーなどがBEMSを開発・販売している。2003年4月の「エネルギーの使用の合理化に関する法律」(通称省エネ法)の改正においてもBEMSの活用が盛り込まれた。

BEMSは、家庭用省エネルギーシステム(HEMS ) とともに建築物からのCO2排出削減に大きく貢献すると考えられている。


2. 技術の概要

1)構成と種類

図3にBEMSの概念図を示す。BEMSは業務用ビル等、建物内のエネルギー使用状況や設備機器の運転状況を把握し、需要予測に基づく負荷を勘案して最適な運転制御を自動で行うもので、エネルギーの供給設備と需要設備を監視・制御し、需要予測をしながら、最適な運転を行うトータルなシステムである。具体的な要素は、図3に示すような温度・湿度センサー、人探知センサー、中央監視制御装置、機器制御装置などからなる。

図3 BEMSの概念図
出典:(一財)省エネルギーセンター「平成16年度 省エネルギー技術普及促進事業調査報告書」


BEMSの構成要素を、制御部、監視部、管理部に3分類した時の詳細な機器構成は表1の通りである。

制御部は、各種のセンサー、インバータ、電力量計、ガスメーター等の計測器などから構成される。図3で言えば、温度・湿度センサー、人感知センサーが各フロアや部屋の温度、人の有無を感知し、監視部(中央の監視制御装置)にデータを送信する。監視部では、送信されたデータにもとづき、エネルギー使用状況を分析し、需要予測を行うなどして、空調・照明の運転等を最適制御する。管理部では、空調・照明機器等の予防保全、清掃等を行う。

また、表2にBEMSの機能を中心とした分類例を示す。BEMSには様々な要素があり、統一的な分類方法は必ずしも存在しないが、この表では、制御内容の付加度合いによって、「基本BEMS」「拡張BEMS」「高級BEMS」「統合化BEMS」に4分類している。基本BEMSとは、既存の中央監視施設に環境情報や機器運転情報の監視機能を追加し、駐車場やエレベータの管理といった管理機能を追加したものでBEMSの基本セットと呼べるものである。拡張BEMSでは、さらに防災防犯監視、調節制御が追加され、高級BEMSでは防災制御や経営管理機能が付加される。統合化BEMSはITを組み合わせてビル群を一括して管理するものである。

これはBMESの分類の一例であるが、今後のBEMSはこうした様々な要素を組み合わせて、単一のビルだけでなく複数のビル群を統合して管理する方向に向かうと予想される。

表1 BEMSの構成
要素 具体的な装置
制御部 制御機器(センサー、アクチュエータ、コントローラなど)
盤類(自動制御盤、動力制御盤、インバータ盤など)
自動制御関連設備(VAV)
計測計量装置(熱量計、CT、電力量計、ガスメータなど)
制御用配管配線及び付属品
監視部 中央監視装置(中央監視盤、照明制御盤など)
伝送装置(インターフェース、リモートステーションなど)
通信装置(ルータ、モデムなど)
制御用配管配線及び付属品
管理部 BMS(ビルマネジメントシステム)装置

出典:各種資料を基に作成

表2 BEMSの機能を中心とした分類例
項目 内容 BEMSのレベル
B E H I
データベース データ入力、採取、制御シーケンス、作表作図フォーマット、知識データベース      
監視部
  • 状態監視
     
  • 各種状態監視
    環境情報、機器運転情報、各種維持管理状態
     
  • 防災防犯監視
     
  • 防災制御
    排煙、空調・換気、消火、昇降、電源
     
  • 防犯
     
制御部
  • 計画制御
     
  • 各種制御
    駐車場管理、昇降管理、業務管理(病院、ホテルなど)
     
  • 調節制御
     
  • フィードバック制御、フィードフォワード制御
     
  • 最適化制御
    環境状態値、機器運転状況
     
管理部
  • 維持管理
    エネルギー・機器効率、予防保全、施設管理機器台帳、故障・修繕記録
     
  • 経営管理
    費用計算、諸管理(不動産、貸室、人事、安全)
     
  • 清掃管理
     
情報部
  • 電話、情報
     
  • TS(Telephone Service)
     
  • OA
     
群管理部
  • 他の建物群の管理、制御
     

注: B(基本BEMS)、E(拡張BEMS)、H(高級BEMS)、I(統合化BEMS)
出典:一般財団法人省エネルギーセンター「平成16年度 省エネルギー技術普及促進事業調査報告書」


2)BEMSで用いられる省エネ制御手法

図4に(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構による「BEMS導入支援事業」で採用された省エネ制御手法を示す。最も多く採用されているのは、風量の制御(変風量)で、室内温度の測定結果に応じて、空調機及びそれに接続された冷水・温水弁を調節し、負荷が少ないときは風量を削減して、電力消費量を削減するものである。冷温水制御は、冷暖房負荷の状況に応じて、負荷の少ないときは冷水や温水の流量を調節する方式である。外気制御、空調・換気関連の制御には、建物の内外の温度に応じて外気の導入量を制御したり、空調機の立ち上がり時に外気を遮断したりすることにより、外気の処理負荷を軽減するといった手法が含まれる。照明制御は、人がいなくて使用されていない部屋やスペースの消灯等を行うことで電力消費を削減するものである。

これらの手法は費用対効果が見込めるため、導入しやすい。また、ポンプやファンの回転数制御や照明の調光制御は、省エネ効果の予測が比較的容易なため、ESCO事業(省エネルギーの改修経費をエネルギー削減による利益からまかなう、省エネサービス事業)として採用されることも多い。(ESCO事業の詳細は、「ESCO」の解説を参照されたい。)

図4 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構のBEMS導入支援事業で採用された省エネ手法
出典:(一財)省エネルギーセンター「平成16年度 省エネルギー技術普及促進事業調査報告書」


3)BEMSを導入する効果

BEMSを導入しデータを蓄積することで、エネルギー消費の傾向を調べることができる。これにより、機器運転の改善点を見出して省エネルギーを図ることはもちろん、機器の劣化状況の判断もできる。

一定規模以上のエネルギーを使用する工場やオフィスなどでは、省エネルギー法に基づいて、消費エネルギーを削減することが求められている。電動機や空調機器、照明等の運転状況を監視し、適切な運転制御を行わなければならないが、これらはBEMSの導入によって自動で管理できる。管理値を超過した場合は、アラームを発する装置によって迅速な対応を使用者に要求できる。

BEMSは、以下のような一連のサイクルを実践することで、エネルギー使用効率を向上させる。

  • 機器の運転状況を示すデータを蓄積し
  • データをグラフで視覚化し
  • 問題点に気付き
  • 改善策を検討して実践する

3. 技術を取り巻く動向

1)低炭素社会づくりの要素としてのBEMS

2008年7月、内閣に設置された地球温暖化対策推進本部(本部長:内閣総理大臣、本部員:全閣僚)が開催され、低炭素社会づくり行動計画と京都議定書目標達成計画の進捗状況の点検結果が了承されたが、その中でもBMESは来たる低炭素社会の実現に向けて欠かせない主要技術として挙げられている(図5)。

図5 低炭素社会における「就業空間のイメージ図」
出典:環境省「中央環境審議会 地球環境部会(第71回)議事次第」


2)商業ビルの環境活動事例

エネルギー・コストの削減、そして確立されたCO2排出削減技術として、BEMSは既にオフィスビル、商業ビル、ホテル、デパート、病院、大学、自治体、工場、研究所、水族館、遊園地などに導入されている。ここでは商業ビルの事例を紹介する。図6の例では、高効率照明の採用、屋上緑化、生ごみのメタン発酵といった対策にBEMSを組み合わせることで、事業所全体でのCO2排出削減を進めている。なお、ビルの省エネについては、省エネビルの解説も参照されたい。

図6 環境省「カーボン・オフセットの取り組みに係る第三者認定施行事業」における(株)ルミネの取り組み
出典:環境省「日本カーボンアクション・プラットフォーム(JCAP)(第1回会合)」




引用、参考文献など

<コンテンツ改訂について>
2013年1月:初版を公開